異世界でレースしてみない?

猫柾

プロローグ

0話 攻めのタイミング

 最終コーナーを抜ける。アクセルを踏む。加速。

 タイヤの寿命はそろそろ限界に近づいているが、あと1周だけならなんとかカバーできそうだ。

 この周のどこかであいつ・・・を抜かなければ勝ち目はない。


 ガソリンは――余裕で足りる。こんなに残るならもう少し減らしておけばよかった。その分だけ軽くできたのに。まあ過ぎたことを嘆いても仕方ない、目の前に集中しよう。


 1コーナーに飛び込む。前との距離は詰まるが、まだ勝負を仕掛けるには遠い。焦ったらダメだ。確実に抜けるポイントを探せ。


「……やっぱりヘアピンしかないか」


 このサーキットの中で曲率が最も高いコーナー。あのヘアピンの進入でインに飛び込むことができれば、そのまま抑えて勝てる。


 問題はそれまでに追いつけるかどうかだ。

 ここからの半周で差を詰める。弱音は吐いていられない。


 短いストレートからの右コーナー。3速までシフトダウンして、速度を殺さないよう勢いに乗ったまま縁石を踏む――リアタイヤが暴れて不安定だ。それでも加速し続けるしかない。


 長い上り坂に差し掛かる。その奥に待ち構えるのが、オーバーテイクポイントのヘアピンだ。

 前のマシンの真後ろについてアクセルを踏み続ける。エンジンはしっかり上の方まで回ってくれる。


 最高速の伸びではいい勝負のようだ。後ろから抜け出し、真横に並びかける。

 イン側はもらった。あとは進入のブレーキングでとどめを刺すだけ。


 まだだ。まだ全開。ここで引く訳にはいかない。まだ。

 もうそろそろか? いや、まだブレーキは早い。耐えろ。


 コーナーが目前に迫ってくる。あと少し。ほんのわずかでもタイミングを逃したら、あっけなく前に出られて塞がれるか、壁に突っ込むかの二択だ。


 もう引けない。




 ――――――今だ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る