「大丈夫か、セツ?」


怪我してねえかと声を掛ければ、うんと耳元から返事がして。





「ゴメン、ジーナは平気?」


倒れた、そのままの距離で顔をのぞき込まれ。

忘れかけた熱がまた浮上する。






(俺…)


こんな気持ち、初めてなんだ。

そう…セツに出会った、あの瞬間から。






「ジーナ…あ!肘擦り剥いてんじゃんか!」


「ああ?んなの大したことないって…」


生返事すれば、ダメって言ってセツは俺の腕を取る。

それから目を閉じて、しばらくすると…

セツの体が淡く光り始めた。







(スゲェ…)


やっぱり、セツは…綺麗だなって。

すぐ近くで伏せられた目に、俺は秘かに邪な想いを抱く。







(こんなこと、あるんだな…)


全く興味なかった感情だけど、今は違う。


もっと知りたい、もっと触れたい。

切に想うほどに、欲は日増しに強くなっていく。






(セツ…)


分かってる、セツを見てれば…。


けどさ、諦めようって思えるほど。

この熱はそんな生半可なもんじゃ、ねえから…






「…どう?」


ゆっくりと、目を開き。

俺に微笑むのはまさに女神のようで。


いとも容易く、この心を鷲掴む。






「あ、うん…ありがとな。わざわざ魔法使わせちまって…。」


つい吸い込まれそうになるのを抑えて、答えるけど。





「良いんだよ。ジーナはオレを守る為に、いつも傷だらけで頑張ってくれてるから。」


どんな些細なことでも、傷付いて欲しくないから───…

俺の神子は、無邪気な笑顔でそう告げるから。






「セツ、俺さっ…」


「ん?」



ダメだ、分かってる。でも、





「俺、は…」



こんなワガママ、口にしちゃいけない。

オレだけじゃなく、みんなだって…





(ルーもロロも、アシュやヴィンだって…)


みんな、同じもん抱えてる。

けどさ、目の前でこんな顔されたらさ…







「セツのこと─────」



(俺は、初めて会ったときからずっと…)







「セツ───…!」


「あっ…ルーファスが帰ってきたみたいだ!」




やっぱり、そう…だよな。






(あんなの、ズリィだろ…)



女神は俺に、いつでも優しく微笑んでくれる。けど、






(また見せ付け、られちまったな…)


あんな最上級の顔は、俺には絶対に見せてくれやしない。


あんな、まるで恋する乙女…みたいな顔は。





(敵わねぇじゃんか…なんも。)



最大の好敵手てきは、俺が欲しいもんを全部持っている。

騎士としての実力も、男として惚れ込むような体躯も…


セツの心さえも。





(なのに気付かねんだもんなぁ…スッゲェあからさまなのに。)


俺に向ける表情の何よりも。

目の前のセツは色めいて眩しいのに。



灯台下暗し…って、まさにこういうことなんだろか?





(勿体ねえよなぁ。俺なら速攻で落としに行くけどなぁ…)



まあ、それは夢のまた夢だけど。






「おい、ルー聞いてくれよ!セツのダンスがヒドくってさぁ~…」


「なっ…仕方ないだろ~素人なんだからさぁ!」



邪魔するつもりなんてない。

俺が望む先には必ず、セツの笑顔が大前提だからな。



だからって、今ここで「実はお前らは───…」なんて親切なことは、言ってやんねぇけど。






「セツがダンス中にセクハラすっから、練習にならねぇし…」


「セク…───ど、どういうことなんだセツ?」


「ちが、あれはスキンシップっていうか…もうっ、誤解招くような言い方するなよジーナ~!」



叶わないって解っていても、気持ちはどんどん膨らんでいく。


些細なことで、もしかしたら…なんて。

淡い期待なんざ、それこそ虚しいだけなんだけど。






(想うだけなら…)


どうせ捨てられねぇんなら、開き直って大事に仕舞っとくしかねぇじゃんか。


先のことなんて、まだ判らねぇんだし。






「それよかさ、勝負しようぜルー!今日1日、誰も相手いなくて持て余してたんだ。」


「ん、そうだな。私もちょうど体を動かしたいと思っていたところだ。」


コレだって、悪足掻き。

ま、実用も兼ねてっけどな!






「帰ってきたばっかなのに。元気だなあ、ふたりとも。」



苦笑しながら距離を取り、対峙するオレ達を傍観するセツ。

といっても、俺なんて殆ど見てもらえないだろうし…


相手にもされてないんだろうけど。







「今日こそは一本決めてやるかんな!」


「ならば私も手は抜けないな。」



いつかルーファスに負けないぐらいの騎士になってさ。セツに男として、少しでも意識してもらえるようになれたら───…






「うっしゃあ!いくぜルーファス!」


焔の守護騎士ジーナ、神子のために今日もかっ飛ばして…


全力疾走といこうじゃねぇか!




…end.

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