焔の騎士の恋①






「なあジーナ、ダンスの練習してくんない?」



その日はたまたま、屋敷にいる守護騎士が俺だけで。

ロロ達みんなが私用で留守だったから、ひとり修行に励んでたんだけど…






「ダンスって…お前、ヴィンにたくさん課題出されてたんじゃないのかよ?」


朝飯ん時に、ヴィンも女王様のとこ行くから、その分自主学習するようにって言われてさ。

セツは「こんなの一日じゃ終わんないよ~!」ってメッチャ嘆いてたハズだけど…。


汗を拭いながら首を傾げる俺に対し。

セツは言葉を濁しながらも答えた。






「これでも結構やったんだよ…。けどさ、気分転換も大事だろ?」


この様子だと、頭使い過ぎて耐えきれなくなったんだろう。セツはそうぼやくと、思いっきり背伸びしてみせた。






「で、なんでダンスなんだよ?」


「や…神子としての教養っていうか、さ。」


初めての舞踏会は、結局体調崩して休んじまったけども。次の舞踏会は是非~って、女王様と約束しちゃったからって。セツは困ったように笑いながら頭を掻く。


そういえば、こないだ陛下に呼ばれた茶会で話してたっけか。


けど、それなら…






「てか、なんで俺?…んなのルーとかアシュのが、適任じゃんか。」



出来ないわけじゃねぇけどさ。

どう見たって俺はダンスってガラじゃねぇし。

剣術の稽古とかなら、喜んでつけてやるんだけども。






「だって、みんな留守だし…」


まあ、そうなんだけど。

俺が微妙な反応を示すと、セツは物欲しげな目でジーッと見つめてくるもんだから。


身長は少しだけ俺より高いハズなのに。

上目遣いのような視線を向けられて…



つい不覚にも、ドキドキしてしまった。







「…ダメ?」


「っ…や、ダメじゃねぇけど…」


セツってたまにこういうスイッチ入れてくんだよな…。本人は解ってないんだろうけど。


だから厄介っつうか…




一歩顔を近付けて、お願いって…いきなり手まで握られて。慣れない感情の芽生えに俺は、内心たじろぐ。






「……わーったよ…」


「ホントか?やった~!」


最終的には根負けして。

喜ぶセツに不意打ちにも抱き付かれて。

俺の心臓は判りやすく、バカみたいに跳ね上がってしまった。







「とりあえず、1回やってみっから。」


こういうことは体で覚えるのが一番だと。

俺はセツと向かい合う。


まあ、細かい説明とか俺には無理だから?

セツを女役にして踊ってみせることにしたんだけど…。



良く考えたら、コレって…







(ヤベェ…距離、近え…)


俺だって教養としてダンスくらい当然学んだし。

社交の場でだって嫌々ながら、何度も踊ってる。


そん時は相手のこととか、この距離感だとか。

全く気にしたことなんてなかったんだけども…







(相変わらず、良い匂いすんだよなぁ…)


香水とか不自然なもんじゃなくて。

セツの体からはスッゲェ良い匂いがするんだ。

前に本人に言ったら、臭いのかって気にしてたけど…。



なんていうか、フェロモンみたいな?

とにかくセツからは、めちゃくちゃ良い匂いがすっから…ヤバイ。



大差ない身長差で、顔もすぐ真横。

白く覗ける首筋辺りから漂うそれに。

俺の幼気いたいけな心は、常に爆発寸前だった。







「ホラ、こっちの手は相手の腰を軽く支えて…」


下心、は勿論ある…────が。

ダンスという名目にあやかって、セツの腰を抱き寄せる。もう片方の手は互いに握り合い…必死で覚えようとするセツの視線は、真っすぐ俺にだけ向いていた。


その視線が嬉しい反面、何処か切なくなる。






「やっぱり、ジーナも上手いんだな。」


リズムに乗り舞いながら。

セツはキラキラと羨望の眼差しを向けてくる。






「そうか?こんくらい誰だって出来るけどなぁ。」


「お、オレは出来ないもん…」



成人男子がもんって…この距離で拗ねたみたく唇尖らせるセツに。無性に叫びたくなるのを…堪える。







(可愛い過ぎだろ、コレ…)


や、例え女でもこんな態度されたらイライラすんのに。


二十歳過ぎの野郎がさ…普通に考えたらあり得ねぇんだけども。


セツ相手だと、逆にアリだから不思議。







「んな顔すんなよ。セツの世界とこっちじゃ、なんもかんも違うんだろ?」


慰めるみたく額をコツンとぶつければ、セツはうんって頷いてみせる。


年上なのに、童顔ってのもあんだけど。

やっぱりセツは可愛いって思える。



俺が素直にんなコト思うのって、相当なんだけどな…。

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