『飼うことのなかった犬』
今日は息抜きでランニングをしました。大人になるにつれて運動する機会は減っていきますよね。まだ二十四歳なのに昔はもっと動けたのになぁと、年寄りみたいに感じることが増えてきました。
大きな公園内をランニングをしている時に犬を散歩させている夫婦とすれ違いました。そういえば昔犬を飼いたいと必死に親にお願いしていたことを思い出しました。
小学生の頃、私と弟はめちゃくちゃ犬が飼いたくて毎日のように母にお願いしてました。
「二人で五百円貯金をしてその貯めたお金で飼いなさい」
母にそう言われた私と弟は二人で五百円貯金を始めたんです。毎月のお小遣いはなく、お年玉のみだった私達は犬を飼うために一生懸命貯金していました。
そして二年ちょっとが経ち、我が家で事件が起きました。
あんなに重くなった貯金箱が無くなったのです。私と弟は泣き喚き、何故か母に返せと怒りをぶつけました。
我が家には祖父母含め八人で暮らしていました。その誰もが知らないと答えたんですよ。泥棒が入ったのかと騒ぎましたが、当然そんなはずありません。だってその貯金箱しか無くなってないんだもの。(笑)
それからは母にあれだけ必死に貯金してたんだから犬を飼えと言い続けました。
しかし厳しい母、あちらは断固拒否を続けました。結局犯人は分からないまま、貯金箱のことは忘れられ、犬を飼うことも諦めました。
時は経ち、私は高校三年生になりました。とても大変で人生で一番の悲しみを経験した年でした。
父の癌が発覚し、それもすでに末期。元気そうに見え、その時は誰も信じませんでした。
痛みが強くなり、気力がなくなり、次第に話すことさえできなくなる父を見るのがとてもきつかった。
そんな父がまだ話ができる頃、学校帰りに病室に寄った私に話を始めました。
「後悔しないように生きるんだぞ」
もういなくなってしまうのかと涙が込み上げてきました。すると父はちょっと泣くのは待ってくれと困った顔をして話を続けました。
「今まで色んな大変なことがあったけど、そのー、あのな、貯金箱取ったの俺だ。いやー、あの時は言えんかったねー。まぁ言っとかないといけないと思ってね。そういや勉強はどうだ?やっぱり大変か?」
話がめちゃくちゃでしょ?こいつふざけてんのかと笑ってしまいましたよ。こいつは失礼ですよね、父ですね。
きっと後悔していたんでしょうね。(笑)でも言うならちゃんとしてほしかったですよ。勉強どうだ?で誤魔化しがきくか!
理由は新しい車を買うのに足しにしたかったからだそうです。車の額に比べたら私達の貯金なんて微々たるものなのに。
それを弟に話して今度は二人で笑いました。
そんなことを思い出しながら、公園を五周して家に帰りました。
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