好き、憎い、好き、憎い、好き(2)

「たりゃあっ!せぇい!」



歪な人形の振り下ろした右手を朔月で跳ね除け、関節部を司っているプランターを破壊する。


人形はだらんと右腕を地面に擦り付けるも、すぐに糸が腕に巻き付けば、強引に崩れかかった腕をギギギと上まで持ち上げる。




あぁ……まただ。さっきから壊しては無理に糸で治され、壊しては糸で治され………


戦闘は堂々巡りになっています。

こんな時……先輩たちだったらもっと上手くやるんだろうなぁ。


いやいや!だから弱気になっちゃダメだって!



橘先生から折角頼られているんです。

ここで彼女を食い止めます!絶対に!



ーーーーーーーーーー



【オ……オオ………】


「そりゃあっと!!」



吠えようとした人形の顎に蹴りを叩きこむと、バラバラそこの岩が砕けて、唸り声が止まります。


ふぅ………これで大方体の基礎は壊しましたね。


あとはぐるぐる巻きの糸を全部切れば



「……い、憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!あぁぁぁぁっ!!!!!」


発狂するように慟哭した目の前の彼女。

それに呼応するように、人形は狂乱の中で、彼女ごと糸が無茶苦茶に絡んでゆき、遂には繭のようになります。



一体何が……



【アアアアアァァァア】


突然、先の人形とは異なる、高い金切り声を繭玉が発したかと思えば、パラパラ余分な糸が抜け落ちてゆき、そうして今度は腕でなく羽を生やした女性を模した人形が中から現れました。


その白い肌はまるで大理石の彫刻みたく艶めいていて、その胸の中央に魔法少女の彼女が胴と頭を出して、憎い憎いと呟き続けています。



なんか、これはマズそう……。

動いてない今のうちに……勝負を決めっ!?


「ウソっ!?」


大きく振り下ろした私の朔月は、肌を切り裂くことなく、後ろへ弾き飛ばされてしまいました。



ちょ……ちょっと…何ですか、これぇ………


せ、先ばぁい……




ーーーーー鈴香sideーーーーー


【アアアアアァァァア】



桐村さんへ弓を向けていると、唐突に高い金切り声が響いた。


何か、また仕掛けたのでは、私が無言で弓を向けると彼女は首をブンブン振って知らないことをアピールする。


「本当に知らないのね?」


「本当の本当ですってぇ!それに、今のあたしに何か出来るようなことないですよぉ!」


この焦りよう、本当に彼女は知らないらしい。


「あ、」


「どうかした?」


「いやぁ、別になんにもぉ……」


もう一度弓を向けると、小動物みたく彼女は小さく悲鳴を上げて口を開いた。


「も、もしかしたらですけどぉ……多分、満ちゃんじゃないかなぁって。あ、あの娘、魔法少女になったばっかりで、それに心も不安定だったから。タガが外れて……なんて」



あの南原さんが………確かになったばかりで制御が効かないのはあり得ない話ではなさそうだ。

止めにいかなくては。


「そ、それじゃあ……頑張ってくださいねぇええっ!!??ひ、ひぃ!」



そそくさと教室から逃げ出そうとしていた彼女のコスチューム部分に何発か弓を打ち、壁に服を留めてしまう。標本状態になった今、逃げられることはないだろう。


「後でまた来るから。三山くんの件、じっくり反省しときなさい。」


私は桐村さんへそれだけ告げて教室を出、おそらく南原さんであろう魔法少女の元へ向かった。


ーーーーーーーーーー



先のダンベルでの一撃がじっくりと効いてきたのか、時折足がもたれそうになるのを注意しつつ急いで旧校舎から出ると、中庭で白い彫像のようなものと牧さんが戦っていた。


勘違いだろうか、心なしか牧さんの腰が引けて見える。


そんなことよりも、兎に角、牧さんに当たらぬよう気を付けつつ彫像へ弓を連続で放つ。


しかして、弓は一つたりとも白い肌には刺さらず、地面へ落ちる。どうやらかなりの硬さらしい。



「牧さん!あれは一体?」


「あ、鈴香さん。わ、分かんないんですけど、糸の集合体で、それで朔月が切り付けれないぐらい硬くて。」


牧さんはいつもとは異なり、てんやわんやといった感じで、それでも目の前の彫像についてを説明してくれた。



目の前の彫像を見る。胸の部分に、いつもの活発で朗らかな南原さんとは、瓜二つの別人ではないかと思うほど、呪詛を吐き出し続け、怒りにぐちゃぐちゃになった姿がそこにはあった。




こんな怪物が学園内で暴れられては困る、私は南原さんの肩を目掛けて風で強化した矢を放つ。


【アァァァアァァァアァァァア】



ぐっ!?……瞬間、彫像は高い声で歌とも叫びともつかない声を出すと、身体の芯を貫かれたような強い衝撃と耳鳴りを食らった。


矢もこの衝撃には耐えかねたらしく、届かず落ちる。



ぐっ……ぐぅぅ…音は更に激しくなり、私は脈絡もなく口から血を垂らしていた。

これは不味い。このままでは……



「うわぁぁあっぁぁあ………うげぉっ!あー、痛っう!」



素っ頓狂な声がして視界に何が落ちてくるのが見えた。橘先生だ。


それを南原さんも見たらしく、呪詛が止まると、それに呼応するように、彫像の大地を震わす声が止まる。




「……………センセェ」


どうやら、窓から飛び降りて来たらしいようだ。

パンツスーツについた、砂や泥を手で払い、橘先生は彫像、いやその胸元の南原さんをすっと見据える。


「ごめんね、南原さん。遅れちゃったけど、話……つけにきたよ」



いつもと変わらない橘先生から、今はどうしてかいつにも無い心強さを感じた。

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