魔法少女なんてロクでもない
朝定食
プロローグ
「魔法少女なんか良いもんじゃないよ」魔法少女はそう言った
「うい、これでラストぉ!!」
黒と白のドレスに身を包み、頭に白黒の薔薇飾りを付けたお姉さんの持つ大きな鎌が、お姉さんの数倍倍の背丈はある灰色の竜を斬り裂いた。
「は〜疲れた、疲れた。…ん?」
お姉さんは、今し方倒した竜を含めた怪物の死骸の山にどかっと乱暴に座って風で涼んでいると、その姿を見ていたボクに気付いたようで、こちらに視線を寄越した。
「あ……え、ええと………お姉さん、魔法少女……なの?」
ボクはその澄んだ視線に、どこか恥ずかしくなり、顔を少し俯かせながら女性に魔法少女か尋ねると、お姉さんはゆっくり頷いた。
「そうだよ。アタシは
ボクがお姉さんの質問に頷くと、お姉さんはボクに手招きしたから、ボクはお姉さんの座る山に近付いた。
「キミ、アタシに熱い視線向けてきてたけど好きなの、魔法少女?それとも、アタシに惚れちゃった?」
「うん!ボク、魔法少女大好き!!」
「なりたい?」
「うん!!」
強く頷くと、お姉さんはそっかぁ、って呟いて、立ち上がると、悪戯そうな笑みを浮かべた。
「魔法少女なんか良いもんじゃないよ。ならないで済むなら、なんない方がいいかもね。」
お姉さんの言葉はボクが返ってくると思ってた返事なんかとは全然違っていた。
なんだかボクは大好きな魔法少女を貶された気がして、強く反論する。
「なんで?魔法少女は可愛くて、綺麗で、正義の味方の良い子だもん!!だって、お姉さんだってそうじゃん!」
お姉さんは、ボクの反論に笑みを浮かべる。
「ザンネン。ヒーローは正義の味方。でも魔法少女は別に正義の味方じゃないんだよ、これがさ。」
「でも……それでもボク、魔法少女になりたいっ!」
「ふーん、これでも?」
ボクの言葉にお姉さんは目を細め、鎌をゆっくり左から右に振った。
その瞬間、鎌の描いた軌道がペンキを塗ったみたいに真っ黒く変色して、息が出来なくなるような威圧感と恐怖感とともに、ボクをイメージのようでいて、そうじゃないような、何か『魔法少女』の嫌なところを集めて一つにしたような情報の塊が襲った。
それが止むと、ボクはその場にへたり込んでしまう。
吐きそう………魔法少女への嫌悪感が根を張ってくみたいに頭にこびりつく。
パパの好きな何も入ってないコーヒーを飲んだときみたいに、ボクの顔は歪んだ。
「アタシさぁ………キミみたいなぁ、魔法少女に夢見てる子供の夢壊すの…好きなんだよね。」
お姉さんはそんなボクを見て嫌な笑顔を浮かべて囁く。
心から我慢できずに漏れ出てしまったみたいな声だった。
ボクは何も言えず、黙り込んでしまう。
そんな、ボクの頭をお姉さんは撫でる。
「ほらさ、魔法少女なんてロクでもないんだよ。多分だけど…キミ、魔法少女になるような気がするから、まっ、それだけ憶えておいてよ。」
またお姉さんは悪戯そうな笑みを浮かべる。
ボクの心にはお姉さんに対する言葉にできない怖さと、それでも感じずにはいられないスプーン一杯の憧れで満たされていた。
そんな会話をしているともう空が端からオレンジ色に染まり始めていた。
「ほら、もう夕方前だし、良い子は帰る時間だよ。さぁ、帰った、帰った。」
お姉さんに言われてボクは帰り道を戻る。
その途中、ボクはポケットに入れてた、大好きな魔法少女アニメのキーホルダーを道端に投げ捨てた。
かちゃん
どこかに当たったのか、小さく音がした。
やっぱり名残惜しくて振り返りたくなった。
でもやめた。
後ろを見るとあの人が見えちゃうかもしれない、そうしたら、心の底から魔法少女を嫌いになりそうだったから。
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