幕間

どこぞの学者

『ジェイズ!酒だ!俺の頭脳が酒を求めてる!!駄賃はやるから今すぐ持ってきてくれ。』


知り合いの出不精な研究バカに電話で面倒ごとを頼まれた。こういうのをパシリと言うのだろうか、一つ勉強になった。


面倒ながら酒屋を目指していると、ナミノ?とかなんとか呼ばれていた、スーツ姿の軽薄そうな女が面白い話をしていた。


なんでも、クチナシマシロなる魔法少女が魔法少女だけ狙う通り魔を返り討ちにしたらしい。


やれやれ、なんとまあ物騒なことだ。

ここ最近はそんな血の気の多い奴がいるのか。

十余年前に来た時にも、なかなか荒いのがいたが、最近の世代はそうも変わり者だらけか。

そう考えると、運が良い。


そんな風に物思いに耽って煙草を吸っていれば、1人の男に声をかけられた。

こっちに慣れていないのか、男は俺に話しかけながら、物珍しそうに煙草の煙を首を慌ただしくキョロキョロさせて目で追っている。そんな姿が余程珍妙だったのか視線を一手に惹きつけている。さながら売れっ子俳優だ。



男になぜここにいるのか尋ねると、どうやら俺が同郷の出身と気付いて追いかけてきたらしい。


「あんたはどうしてこっちに?」


「そうか。俺はフィールドワーク目的でね。もう5年になる。」


男が声を発するたびにどこからか声が上がる。

これは言っておいたほうが良いな。


「同郷のよしみとして一個忠告しとくが、そのままの姿は良くない。最近は物騒なんでね。」


「気をつけとけよ。魔法少女はいつもギラギラ目ぇ光らせてんだよ、俺たちにも、自分達にも。」


「どういう諺かって?別にそんな大したもんじゃない。こっちに暮らして感じたことを言っただけだよ。」


「それじゃあ、まぁ気をつけて」


男と別れると、すぐさま背後が騒がしくなり、静かになったと思えば、足下にさっきまで話していた男のツノが転がってきた。


「大丈夫ですか?」


魔法少女が俺に駆け寄ってくる。

どうやら、俺とさっきの男との間で一悶着あったように思ったらしい。


「私は何とも。それより、さっきのアイツはどうしたんです?」


「さっきのあいつ…?ああ!ヴェイグリアのことですか?それならは退治しましたから、安心してください!」


「ちょっと、いつまで喋ってんの?祐美が食べたがってたドーナツ売り切れてもしんないよ。」


「うそ!?すぐ行く!」


目の前の魔法少女はもう一人に呼ばれ、変身を解きながら慌ただしく走っていく。


「ほら。言わんこっちゃない。」


ツノに爪先を軽く当ててやると、コロコロ転がり、能天気そうな金髪と神経質そうな長髪の、別の魔法少女2人組の元へ辿り着いた。


「あ〜らら、もう終わっちゃってたかぁ。残念だったねぇ、ヤマイちゃん。」


「チッ…つまらないわね。人に倒されたんじゃ、金になんないし。行くよ、相澤。」


彼女らもさっきの男を追いかけてきたらしい。

もっとも、こちらの2人はヴェイグリアを倒した分の報奨金狙いだったらしいが。

長髪の方が憂さ晴らしと言わんばかりにツノを踏み潰し、二人も姿を消す。


「やっぱり魔法少女は見てて飽きない。風土研究に彼女らを書かないわけにはいかないなぁ……しかし、魔法少女と会話したのは初めてだ。貴重な体験をどうも。」


踏み潰され、粉々になったツノの欠片に向かって礼を言ってみたが、当然男からの返答は無い。


さっきの話のクチナシマシロだったか、その真っ白女にでも会って話を聞きたいもんだ。

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