第5話 酷すぎる証拠
「つ、つまりマリアよ、この映像が、愚かなジンの証拠となるのだな……ごほんっ……」
コンラード王国の国王陛下ともあろう人物が、若干どもりながらマリアに問いかけた。
「はい、陛下」
マリアはしっかりと頷く。
現在、国王陛下の執務室には、国王は勿論の事、マリアと父であるフィクサー公爵がソファに座り、その背後に記録担当の文官2名が立っている。
皆一様に、正確にはマリア以外、眼前に映し出されている大画面の映像に釘付けである。
『っあっああ!コロン!!好きだ!愛してる!!!っああ!!』
「「「…………」」」
国王陛下は頭を抱えている。文官は記録して良いものか分からず、ペンをカタカタと揺らしていた。
『あぁ~堪らない!気持ちい!!コロン!!結婚しよう!!!私には君だけだ!!!!ああ~~~~っ!!』
「「「…………」」」
マリアが「異世界人の生態4」に載っている「映画館」なるモノを参考に開発した大画面には、ジンが大音量で喘いで腰を振っている姿が映し出されていた。
魔力には記録する力が備わっている。
マリアが発明した魔力視覚化レンズは、視覚化した魔力を映すことによってそれらの持っている記録すら視覚化することが出来た。
勿論保存、投影機能も付いている。
マリアは始め、昨日の昼休み、ロキシーと撮影したランキングと赤い糸の画像を見せ、陛下にジンとの婚約解消の意志を伝えた。
しかし陛下から良い返事を貰えなかった。
「その様なモノを見せられても意味が分からないし証拠にもならない」
隣で聞いていたフィクサー公爵が怒りの表情で陛下に抗議しようしたが、寸前でマリアに遮られてしまう。
これは陛下からヴァイオレットへの宣戦布告である。マリアはそう受け取った。
いかに魔力を視覚化し、糸や数字に現したからといって、それが相手の不義理の証拠にもならず、婚約解消に繋がる決定的な証拠とはならない。
つまり、陛下にその気が無くとも、ヴァイオレットの発明を陛下自らが否定しただ。
ヴァイオレットのプライドはいたく傷つけられた。
それとも何か?
このような証拠があったとしても、我慢してジンとの婚約を続行せよと宣うのか。
マリアのはらわたは煮えくり返っていた。
しかし、想定内のように特に取り乱した様子も無く、残念そうにほほ笑んで見せた。
「恐れながら陛下、よろしければ画面上の糸、ジン様から繋がっている赤い糸に触れてもらえませんか?」
しっかりとした証拠をご覧にいれますわ。
ここまでする気は無かったが、泣き寝入りなどマリアの性に合わない。
これはヴァイオレットの沽券にも関わる。
さて、陛下がどのような言い訳をするか見ものだわ。
マリアは悪い顔でほほ笑んだ。
そして、今現在。
『あああああ!!コロン!最高だ!!コロンコロンコロン!一緒に!一緒にいこう!!~~~~!!』
ジンの大絶叫が室内にこだまする。
「マママママリア、これはいつまで続くのかな?」
父であるフィクサー公爵がげんなりしながら、かれこれ2分程続いている映像から目を逸らしてマリアに尋ねた。
「申し訳ございません。私も今日初めて拝見致しますので、どれくらいかまでは」
「そ、そうか」
フィクサー公爵はがっくりと肩を落とす。
マリアはちらっと画面に目を向ける。
そこにはドアップで頬を赤らめ、汗をかいてハアハアしているジンの顔が見えた。
きもっ!
マリアはそっと視線を逸らした。見ると周囲も画面から視線を逸らしている。
「皆さま、これは私が頑張って集めた証拠でございます。きちんと最後まで確認して頂きとうございます」
自分の事を棚に上げて、マリアは悲しそうに眉を下げて訴えた。
「ああ、ああ、勿論分かっておるが、ただこれはご令嬢にはちと刺激が強過ぎるのではなかろうか?」
陛下が額の汗を拭いながらマリアに問う。
「御心配には及びません、陛下。この魔道具はコロン嬢の魔力のみ保存しております故、彼女の目で見たモノしか映し出されません。よって婦女子の裸体等の破廉恥な映像は流れませんので心配無用でございます」
故に、大画面には無様なジンの姿のみが映っているのである。
時間にして3分弱。
ジンがひときわが大絶叫したかと思うと、一気に画面が静かになった。
お、終わったのか……?
室内の男達は、ほっと一息ついた。
画面には、ガサゴソと衣服の乱れを整えてコロンに愛を囁くと、1人で去っていくジンの後ろ姿が映し出されている。
見た所学園の校舎の裏の様だ。
今更怪しまれないように別々に戻る意味あるのかしら?
マリアは首を捻った。
陛下は大きく息を吐く。
マリアがちらりと視線を向けると、陛下の容貌が先程よりも大分老けたように見えた。
気を取り直して陛下が口を開こうとした瞬間。
『はあ~、やっと終わった』
先程から全く聞こえなかったコロンの声が画面からから聞こえた。
『はあ~あいつって、いっつも1人で興奮して1人で突っ走るのよね~。な~にが一緒にいこうよ。うるさいし全然気持ち良くないし。確か王族よね?お城ではそういう指導とかしてないのかな~?顔はいいのに残念過ぎる』
コロンは割と毒舌のようだ。
友達になれるかも?と密かにマリアは思った。
『まあいいか。早いからあっと言う間に終わるし。ジンと結婚する女の人可哀想。早いし下手くそだしうるさいし~3重苦だわ』
ぷぷぷぷと画面内のコロンが愉快に笑う。
室内の男達が何とも言えない顔で一斉にマリアを見る。
『うふふ~やる事やったし、ジンには明日宝石でもおねだりしてみようっと』
そこでぷつりと映像が途切れた。
室内に静寂が訪れる。
「あ、他の令息も赤い糸に触れる事でそれぞれの情事が見られますが如何しますか?」
マリアは静寂をぶち壊し、平常運転で皆に尋ねた。
その後、秒で婚約解消出来たのは言うまでもない。
それからマリアは陛下にそのままオペラグラスを渡した。
ジンは勿論の事、記録されていた映像には隣国の皇子キースや、他の貴族の映像もある。各々の家に公開するかどうかは陛下に一任する事となった。
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