第6話 マリアは合コンがしたい
昼下がり、いつものように生徒会室で寛いでいたマリアとロキシー。
「ロキシー。私合コンがしたいわ」
突然マリアは言う。
「ゴウコン?」
ロキシーは聞きなれない言葉に首を傾げた。
「ええ、合コン。異世界では合同コンパって言うのだけれど、同じ人数の男女が交流する場らしいの」
「それはお茶会や夜会とは違うものなの?」
「男女の出会いを求めて行う催しだから、お茶会に近いのかしら?でももっと少人数で行うようですわ」
マリアは傍らに持っていた愛読書『異世界人の生態5』を広げて内容を確認している。
「どうしてそれを私に頼むのかしら?」
ロキシーは首を傾げた。
「ロキシーにはガイア殿下がいるでしょ?」
マリアが答える。
「ま、まあね」
ロキシーの頬がほんのりと朱に染まる。
実はロキシーとガイアは王族にしては珍しく恋愛関係にあるのだ。
「誰がどう見たってガイア殿下は生粋のグランデ帝国の男って感じですわ。真面目で誠実でそれでいて大胆で王の素質を兼ね備えているわ」
「……ええ」
何故かロキシーが照れている。
「つまり、彼の友達は類友な訳ですの」
「え?ええ?ルイトモ?」
マリアは異世界用語を多用する為、ロキシーには難解な時が多々あった。
「つまり同じ資質を持った友達がいる、と」
「その方々とゴウコンしたいと?」
「そう!それで主催はロキシー王女殿下、参加者はコロン嬢の周りにいた令息の婚約者達よ!」
「えっ……」
「だって可哀想でしょ?私を含め、皆とても美しくて優秀な令嬢なのに」
この国ではたとえ男性に非があったとしても、婚約の解消は女性にとって醜聞でしかない。それほどに、女性の地位は低いのだ。
もしコロンの周りにいた令息が引き続き婚約継続を望んだ場合、女性側はそれに従わなければならない。いかに男がクソだとしても、だ。
しかし王族主催のパーティーで別の伴侶を見つけた場合、それを口実に断る事が可能となる。
今回はジンもその渦中にいる為、何かと話が進みやすいとマリアは考えていた。
あの映像で大打撃を受けた陛下も、きっと今なら簡単に落とせそうだ。
「マリア、あなたとっても悪い顔してるわ」
ロキシーが呆れた顔でマリアを睨む。
「良いじゃない。可哀想な私達に救いの手を差し伸べて下さいまし。それにもし正式に婚姻となればグランデ帝国に嫁ぐ訳ですし、ロキシーも帝国でお友達がいて心細くないのではなくて?」
「う……」
ロキシーは、明らかに言いくるめられそうな予感がした。
「それに、私が何の見返りも無くロキシーにそんな無理を頼むわけないでしょ?」
無理と分かっていて頼んでいるのか、とロキシーは呆れたが、
「見返りって?ちょっとやそっとでは折れませんわよ」
一応対価を尋ねる。
「これですわ」
マリアはロキシーに薄い金のカードを2枚手渡した。
それを受け取りまじまじと観察した後、ロキシーは絶句した。
「1枚はガイア様の分ね」
マリアの言葉にロキシーは一気に赤面した。
「ここここここれは……まさか転移カード!?」
「そうそう、そのまさか」
国のトップでも限られた者にしか所持する事を許されない、別名ゴールドカード。
2枚ワンセットで、それぞれ所持者の魔力を覚えさせる事によってお互いの場所を行き来する事の出来る転移カードである。
ゴールドカードを持つ者は選ばれた者の証。勿論この発明も、例の本を参考に作ったマリアことヴァイオレット渾身の魔道具であった。
乱用すると世界情勢を変えかねない為、使用者を厳しく制限している。この国で所持しているのは現在国王陛下ただ一人だけだ。
「これでガイア様と逢引三昧ですわね」
マリアは笑いながら言うが、ロキシーは腰が抜けそうなほど驚いていた。
国家機密と言えるほどのカードを、逢引の為だけにくれるなんて……。
毎日届けられる花束とプレゼント。
忙しい合間を縫って繋げれるガイアからの魔術回線では、尽きることの無い愛の言葉を送られる。
そう、2人はラブラブなのである。
しかしお互い別々の国なので会う事もままならない。
陸続きであるが、王都から馬車で20日もかかる。
転移門もあるにはあるのだが、使用の際には各々の国王と宰相の許可証が必要であった。
これでガイア様とお会いすることが出来る!
ロキシーはマリアの友情に感謝したが、当のマリアはそんなに深く考えていなかった。
どうしても合コンに行きたいので、手持ちで余ったカードを渡しただけである。
「分かったわ!ガイア様に伝えてみる」
ロキシーはあっけなく買収された。
「ありがとう、ロキシー。それじゃあ幹事としてこれをお願いね」
マリアは懐から1枚のメモを取り出した。
ロキシーは何気にそれに目を通す。
①ガイア様には最低5名の条件にあてはまる殿方の参加をお願いする
②開催場所は王城の庭園
③国王と宰相に転移門の使用許可をもらう
④もしカップルが成立した際には、国王陛下自らが祝福する
「……」
ロキシーは絶句した。
「大丈夫よ、宰相は私の父だしきっちり根回しはしておくわ。ジン様の事もありますしね」
多少の無理は聞くはず。
後半に進むにつれ声が低くなっているのは、ロキシーの気のせいだろうか。
こうしてマリアの口車に乗せられたロキシーは直ぐにガイアに連絡を取り、合コンのセッティングを始めたのだった。
マリアはその間、参加予定の令嬢に向けて2通の手紙をしたためていた。
1通は王家主催の合コンへの招待状。
もう1通は、彼女達の当主への手紙である。
婚約解消時の家へのバックアップと、哀れに思ったロキシー殿下が自ら次の婚約者候補を用意する旨が記されている。
これで開催待ったなし。
マリアは嬉しそうにほほ笑んだ。
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