第9話 屋敷での日常(3)
そんな生活が1か月続けた。
アルは変わらず調理場、中庭、書庫と自分の部屋とを行き来する日々を送っていた。ダンさんはカレーのレシピもある程度完成させているし、カインもみるみる成長している。
書庫の本も順調に読み進め、充実した日々を過ごしていた。
そんな中で、アルは重要な事を知る事ができた。
書庫にある本を読んでいると、「ステータス魔法」なるものの存在がわかった。
と言っても、ニーナやミリアの行動を見るかぎり、そう言った魔法がある事は予想していたのだが。
ただ、そのステータス魔法が5歳の「洗礼」で使えるようになるという事が分かった。
これはカインに聞いた事だが、5歳になるまでは子供に魔法を使わせないという神の啓示らしく、5歳の洗礼時に他の魔法も使えるようになるらしい。
常識を持ち合わせない子供に魔法を使わせない様にするとは、アルが知る神様らしいと思った。
あとは世界の地理、歴史、文化なんかも知る事ができた。わからない事はカイン、ニーナ、ガンマの順に聞く様にした。
カインは世間一般の常識を持ち合わせているし、市民の立場から色々教えてくれる。また、アルの事を尊敬しているため、口も固いし何か2歳児らしくない質問をしても流してくれている。
ニーナもそういう部分があるが、ミリアやガンマに近しい存在なので、多少気を付けて行動している。
最近分かったのが、魔法には5歳児になると使用できるようになる「生活魔法」と才能に影響される「属性魔法」の2つの種類があるという事だ。
人族であれば、「生活魔法」はほとんど誰でも使用できるらしい。
ただ、極端に魔力量の少ない人や、5歳になるまでに極めて極悪な悪事を働いていたりすると、洗礼を受けても使えない例もあるらしい。
しかし、亜人族は「生活魔法」が使用できないそうだ。
魔力量の問題なのか、そもそも使用できない種族であると割り切られているのかはわからないが。
「生活魔法」には、明かりとして使用する「ライト」から、火を起こす「着火」や水を生み出す「ウォーター」など多岐にわたるが、それらに攻撃性はない。
しかし、悪戯程度で済めばよいが「着火」で火事を起こすことも可能なくらいには危険なものである。そのため、神は洗礼を受ける5歳まで使用できないようにしているのではないだろうか。
次に「属性魔法」だが、使用可能かどうかはすべて才能によるものらしい。
カインに聞くと、普通は1つか2つ程度で多くても4つが限界だという話だ。ちなみに兄であるガンマは2属性で未だあったことのないベルは3属性の魔法に適性があるらしく、ベルは世間で「天才」と呼ばれているらしい。
アルが読んだ『ユリウス冒険譚』に出てくる魔導士は火・水・風・土・光・闇の6属性を使用することが出来たとのことだったので、現代にもそのような魔導士がいるものだと思っていた。
ちなみに、ステータス魔法は亜人だろうが誰でも使用できるそうだ。
これはどういう原理なのだろう。
◇
「明日か明後日には帰ってくるらしいわよ」
「そう……、何もないといいけれど」
アルがいつもの様に中庭を散策していると、メイドたちの話し声が聞こえてきた。時期的にベルの話をしているのだろうが、どんな人なのだろうか。
「アルフォート様!」
アルがそのメイドに話を聞こうとすると、後ろからカインが声をかけてきた。アルの名前を聞いてか、メイドたちはそそくさと屋敷の中へ入っていってしまう。聞かれたらまずいことだったのだろうか。
「カインさん。今日は訓練日ですよね?」
訓練日にカインが話しかけてくることは珍しいので、アルはそう尋ねる。
「はい。今は休憩中でして、中庭に出てきていたらお姿が見えまして」
カインはそう答える。日に日にカインの態度が子供へのそれではなくなっているように思うが、アルは気にしないようにしていた。
「あと、アルフォート様に報告しておきたいことがあるのです!」
「報告ですか?」
「はい。実は正式に騎士団への任命が決まったのです!」
そう、カインは正式な騎士団のメンバーではなく、見習いの身分だった。グランセル公爵領では、強制的な徴兵ではなく騎士団には意欲ある領民を募集している。カインもその募集によって騎士団の修練場に来ていた。しかし、彼らはすぐに騎士団に入れるわけではなく、訓練にしっかりとついてこれ、尚且つ武術の才能を認められて初めて任命されるのだ。
「それはおめでとうございます!」
「いえ、アルフォート様のおかげです。フェイントだけでなく、剣の振りや足遣いまで見てくださいましたし」
カインの謙遜にアルは微笑む。
「カインさんが毎日頑張った成果ですよ!これからは騎士団員として守ってください」
「アルフォート様……。はい! 私の命に代えましてもお守りいたします」
カインはアルに敬礼をして、再び修練場の方へ走っていく。
今まではテストの意味合いが強かった訓練も、これからはより厳しいものになるだろう。アルは心の中で「頑張れ!」と応援した。
◇
「ベル兄様ってどのような方なのですか?」
メイドたちにベルの話を聞きそびれたしまったので、アルは部屋にやってきたガンマにベルの話を聞くことにした。
「そうだねぇ……。少し変わった子だよ」
ガンマは少し視線を横へ流しながらそう言った。
「とても優秀ではあるんだよ。私は火属性と風属性の2属性の魔法を使うことが出来るけど、ベルはそれに付け加えて闇属性の3属性を使うことが出来るんだ」
「ただ――」
少し気まずい顔をしたガンマが何か言おうとしていたが、その言葉を遮るように扉がノックされる。
「ガンマ様。ミリア様がお呼びで御座います」
「分かった。すぐに向かう」
扉の向こうからの声にガンマはそう答える。
「ごめんね。この話はまた今度」
ガンマはそう言って部屋を出ていく。
にしても、あの優しい兄上が困ってしまうなんて。
アルは少し不安な気持ちになるのだった。
◇
朝食を終えて、いつもの様に屋敷を散策する。
しかし、いつもとは違って調理場には行かなかった。今日はベルが帰ってくる日なのだが、合わせてレオナルドも帰ってくるようで、厨房は大忙しだろうからだ。
アルが行ってしまうと余計な仕事を増やしてしまうので、今日は自粛したのだ。
また、今日は騎士団も街へ巡回しに行っているのでカインとも会えない。
別に部屋でゆっくりしても良かったのだが、散策することが習慣づいてしまっているので、こうやって部屋の外に出ているのだ。しかし、やることもなく暇だったので魔力循環をしながら屋敷を回って、いつもより早く部屋へ帰ってきた。
「よぉ、お前がアルか?」
部屋に入ると先客がいた。年は大体17、8くらいで、髪色は銀色でアルと同じ青い目をしている。誰かは大体予想できるが、一応すぐに動ける体制を整える。
「はい、僕はアルフォートです」
そう言って部屋を見回す。
部屋は特に荒らされたりはしていない。開いている窓から入ってきたのだろうか。
「ははっ、面白い奴だなぁ」
その男性はアルの行動を見て大きな声で笑う。
「俺はベル。お前の兄だよ」
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