道端に咲いた優曇華~転生したら3000年に1人の逸材と呼ばれる~

花咲き荘

序章 現実世界と天界

プロローグ



――道端に咲いている花にも命はあるのだろうか。



 僕の胸の中には、血液をあらゆる器官へ送り出すポンプの様なものが存在していて、その送り出される血液が体外から取り込んだ酸素を体全体に届けているそうだ。そして、不要になった二酸化炭素を放出することで、常に新しい酸素を体内に循環させている。


 このサイクルが破綻すると、人間はそう長くない時間で生命を失う事になるらしい。



――道端に生えている花には命はあるのだろうか?



 おそらくあるのだろう。


 しかし僕たち人間は、大事な人へのプレゼントや自分の趣味、友との別れや祝いの席のために、道端に確かに存在している命を簡単に摘み取ってしまうのだ。そこに命があると知っていながら。


 自らの糧とする為に動物を殺し、自らの住処を得るために木々を伐採して、僕たちは今の生活を手に入れ、何かを犠牲にしながらその生活を維持している。


 現代に住む僕たちにとって、これらの犠牲の上に成り立つ社会はごく当たり前に存在するものであり、自らはどの様な礎の上に成り立っているのか考えもしないのだ。




 かくいう僕もその中の一人であり、今しがた目の前の惨状から現実逃避している。



 目の前には、先ほどまで確かにそこに存在していた命の残骸とそれらを生み出した男が立っている。


 彼は僕をまるで親の仇の様な目で睨みつける。僕と男とは面識はないはずだ。目の前に転がっている骸たちも、おそらく僕と同じなのだろう。



――彼にとって、僕たちは道端に咲いている花なのだ。



 男は目を血走らせながら訳の分からない言葉叫びつつ、鋭利な刃物を持って、此方へ突進してくる。


 おそらく僕はここで殺されてしまうだろう。


 

 僕は目を瞑り、悟りを開いたお坊さんの様にその瞬間を待つのだった。

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