僕は糞を踏む。
一ノ瀬 遊
第1話、神託の儀
ハートロック王国、辺境の田舎町シャイブ。
今日はこの田舎町で年に1回の行事がある。
それは神託の儀である。
今年成人を迎える者にスキルを与えると言うものだ。
スキルによって大半進む職業が決まる。
剣術や槍術なら兵士や騎士などの職に進みやすいし、斧術ならきこり、薬術なら医者や薬師などに向いているのだ。
これはあくまでも向いていると言うだけで必ずならなきゃい
けないと言うわけではない。
ここに今日神託の儀を迎える青年が居た。
名前はザック。
彼は冷めていて面倒くさがりだ。
神託の儀か...。
面倒だな...。
どうせなら地味なスキルがいい...。
ってか布団から出たくない...。
「こらぁ!ザック!いつまで寝ているの!?
そろそろ起きて準備しないと神託の儀に間に合わないわよ!!」
来た...。
母さんのモーニング怒鳴り。
毎日毎日早起き過ぎるって...。
俺はそんな事を思いながら仕方なく起きる。
これ以上愚図ると何をされるか分からないからだ。
前に愚図った時には布団ごと縛られて町中引きずり回された。
あれはものすごく恥ずかしかった。
俺は顔を洗いに部屋を出て洗面台に向かうと親父が居た。
「おうザック!おはよう!!今日はいい天気だぞ!」
「おはよう...。うん。いい天気だね...。」
「そうだ!天気も良いしこれからランニングでもしないか?」
「い、いや...。やめとく。これから神託の儀だし...。」
「あちゃー!今日は神託の儀か!ならしょうがない!!父さんはひとっ走り行ってくるわ!母さんに言っといてくれ!」
「...うん。」
朝からランニングってどんだけ元気だよ...。
親父とのランニングも良いことはない。
あれはランニングではない。鬼マラソンだ。
何度も付き合わされたが、3日3晩走らされ、まさに地獄。
うちの両親は普通とはどこか違うといつも思っていた。
まぁ優しいのだが...。
俺は顔を洗いリビングに行くと朝御飯が並んでいた。
パン、スクランブルエッグ、スープ、サラダで良いものをハンバーグ、ステーキ、シチューまで並んでいた。
....こんなに朝から誰が食うねん。
「ほらほら早く座って食べて!
私は忙しいんだから。ってあれ?お父さんは?」
「父さんはランニングに行くって行ってたよ...。」
「あのバカ...!あったまきたぁ!
ザック、お母さんちょっと出てくるからちゃっちゃと食べちゃいなさいね!」
そう言うと母さんは俺の返事も聞かずに家を飛び出して行った。
やっと静かになった...。
俺は静かになった部屋で優雅に食事を楽しんだ。
あぁ~。もう食えない...。
朝から作りすぎだって...。この残ったのどうするんだろう...?
そう思っていると、
「ただいま!!」
帰って来たみたいだな。
見ると母と母に引きずられている親父の姿があった。
「お、お帰り...。早かったね。」
「もうこの人ったら王都まで行ってるんだもん...。探すのに少し時間かかったわ。」
....王都?
今、王都って言ったよな?
嘘だろ...。王都まで馬車で1週間かかる距離だぞ...。
「しょうがないだろ!
夢中で走ってたらそこまで行っちゃってたんだから!!」
「今日は大事な日だからランニング禁止って言ったじゃない!」
「動かさないと何か体が気持ち悪いんだよ!」
王都まで行っている親父もすごいが、母さんはどうやって追いついたんだ?
本当にこの夫婦は謎だ...。
その後2人の言い合いは平行線のまま10分も続いた。
その間俺は神託の儀に向かう準備をした。
「あ、あの...。これから行って来るね。」
「気を付けて行ってきなさいね!!」
「ザック頑張って行ってこい!」
頑張るって何を...?
神託の儀は神父さんが頑張るものだけど...。
まぁいいか...。
「行ってきます。」
俺は教会に向かって歩き出した。
「アナタ。ザックはいいスキル貰えるかしら?」
「さぁな。そればっかしは神のみぞ知るってヤツだな。
でも、俺たちの子だからな。
面白いスキルもらうんじゃないか?」
「そうね。スキルがどうであれザックはしたいことをしてくれればいいわ。」
「そうだな。精一杯応援してあげよう。」
「ええ。」
ザックの両親タイアードとアメリアは協会に向かう息子の背中を見送った。
足取りが重い...。
体が拒否しているだろうな...
アイツらも居るんだろうな~めんどくさい...。
そんな事を思いながら教会についてしまう。
すると、
「オォイィ!!うすのろザック!
出会ったらすぐ挨拶こいやぁぁ!!」
「....キンダル。」
嫌な奴に速攻会ってしまった...。
最悪だ。
彼の名前はキンダル。事あるごとに取り巻きを引き連れて俺に絡んでくる。
「ザックのクセに生意気だぞ!」
「そうだそうだ!!」
キンダルの金魚の糞がなんか言っている。
なんで絡むのは俺なんだろう?
他にも居るだろうに?
謎だ...。
「お前まさかいいスキル貰えるとか思ってんじゃないだろうなぁぁ!?あぁ!?」
「....おもってないよ。俺は無難なスキルでいいんだ。ってかスキルに興味はないし。」
「なぁに格好つけてんだぁ!!お前なんかどうせ雑魚スキルだ!ザックの雑魚スキル!」
「あひゃひゃ。キンダルさん面白いっすね!最高っす!」
本当は面白くないクセに顔ひきつってるのバレバレだってーの...。
「そうだろ、そうだろ!俺たちが先に神託の儀受けるからザックゥお前は一番最後な!!」
「....。」
「返事はどうしたぁぁ!?」
「...わかった。」
神託の儀の順番なんてどうでもいいんだよ。
あぁ....早く帰って寝たい。
俺はキンダル達の後に付いていった。
もう神託の儀は始まっていて大半の同世代がスキルをもらっている。
レアなスキルはまだ出てないみたいだった。
「次は居ないのか...?」
神父さんが言うと、
「俺たちまだ受けてないぞ!」
「早く来なさい!」
「ちっ!偉そうに...。俺から行ってくるわ。」
キンダルが神父の前に立つ。
「この魔法の玉に触りなさい。」
キンダルが魔法の玉に触ると淡い光が放った。
「....よし。神よ。.......汝に祝福を与えたまえ...。おぉ、素晴らしい...。
キンダル。
そなたのスキルは上級斧術だ。おめでとう。」
「さすが、キンダルさんっす!!」
ここに来て初めての上級スキル。
意気揚々とこっちに帰ってくる。
「俺ぐらいになるとこんなもんだ。へへん。
おら!お前達もさっさと行ってこい!」
「「はい!!」」
キンダルの金魚の糞達も神託の儀を受けたが、探索術、回復術、剣術と平凡なスキルに終わった。
「ザックゥゥ!!次はお前だぁ!早く行ってこい!どうせショボいスキルだから精一杯笑ってやるぜ!!」
お前に言われなくても行くし...
本当にいちいちうるさい奴だな...。
うるさいのはうちの両親だけでいいわ...。
クシュン!
??
タイアードとアメリアは同時にくしゃみした。
「誰か私たちの噂しているのかしら?」
「多分な...。」
俺は神父さんの前に行った。
「君は...タイアード殿とアメリアさんの息子だね?」
「...はい。ザックと言います。」
「そうか...。もうそんなに時が経ったのだな...。」
???
この神父さんは両親の知り合い?
こんな人家に来たこと無いけどな...。
「ザック君。この魔法の玉に手をかざしてくれないか?」
「は、はい。」
考え事してた俺は一瞬ハッとしたがすぐに意識を現実に戻して魔法の玉を触った。
あれ?
全然光らないな...?
キンダルの時は淡い光が光ってたのに...。
ってことは俺は平凡スキルゲットかも!
「神よ...。神の祝福を汝に与えたまえ。」
神父さんがそう言った瞬間だった。
魔法の玉が眩しいくらい光った。
「な、なんだこれは...。こんなことは今まで一度もなかったぞ。」
神父さんも驚いている。
しばらくすると光が落ち着いてザックの神託の儀が終わった。
「こ、このスキルは!?」
「何なんだ!!早く言えよぉぉ!」
キンダルは大声をあげる。
「ザ、ザック君のスキルは....。」
「スキルは?」
「[糞を踏む者]だ。」
「はっ!?」
「へっ!?」
俺も変な声が出た。
何だよ...。[糞を踏む者]って...。
それはスキルじゃなくて称号だろ。
ってかくそを踏むって....。
めっちゃ恥ずかしいだけど。
何なんだよチクショウ。
やっぱ来なきゃよかった...。
俺が変なスキルでイライラしていると、
そこにキンダルが近づいてきた。
「ひゃぁーはっはっはっはっは。糞を踏むって何なんだよ!?マジ受ける!雑魚ザックから糞ザックにランクが落ちたな。あはははは!」
「あはははは!マジウケるっすね!糞ザック!」
キンダルと金魚の糞達は俺をバカにしてくる。
その笑い声が俺の中にある我慢したものの紐を緩め始めた。
「君たち!止めなさい!!
ザック君は特別なユニークスキルを授かったんだよ。
まぁ名前はアレだけど...」
特別?こんな恥ずかしいスキルなのに....。
俺が気落ちしているとキンダルが言葉の追い討ちを掛けてくる。
「でも糞を踏む者って...。....ぷっ!!
あははははは!!ダメだ面白すぎるぅ!!
今度から雑魚ザックじゃなくて糞ザックって呼ぶな!!あはははははは!!」
もう好きに呼んでくれ。
俺はどうでも良くなっていた。
「あははははは!!ザックゥゥ!!
お前が糞ならお前の両親は何なんだろうな!?
糞じゃなくてゴミだろうな!!あはははははは!!」
キンダルがそう言った瞬間俺の中で何かが切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます