第2話 それ俺のシャツだよな……?
「今日は何する?」
「午前中は荷物整理だな。買い物は午後行こう」
「ん」
およそ一時間後くらいに二度寝から目覚めたユナとの朝食。
引っ越してきたのは昨日だが、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機なんかの重要な家電や注文していた家具は運び込まれている。
そのおかげで不便はないが、昨日の今日で朝食を作るのは面倒だったので、手間を省くためにコンビニで買ってきたサンドウィッチで腹を満たす。
ユナはまだパジャマのままで、両手でハムサンドを持ちながらもきゅもきゅとハムスターのように口を動かしている。
どことなく小動物っぽい雰囲気を漂わせているのは気のせいじゃないと思う。
食べ終わったユナが部屋に着替えをしにいく。
それを見届けて、俺はリビングの隅に重ねられた段ボールの山を崩しにかかる。
二人での引っ越しだが、荷物自体はそこまで多くない。
大型家電や家具はこっちで新しく買って
ガムテープの封をカッターナイフで切って開き、荷物を取り出す。
外側に何が入っているのかを書いていたため大体の中身はわかる。
中身の服を取り出して確認していると、
「着替えた」
部屋から
荷物整理だから動きやすい服の方がいいと思ったのだろう。
実際それは間違っていないのだが……
「見間違いじゃなければ、それ俺のシャツだよな……?」
明らかにユナの身体に対してサイズが大きく、見覚えがあるそれは俺のTシャツだ。
昨日のうちに着替えとして何枚か出しておいたもののはずだが、どういうわけかユナはそれを我が物顔で着ている。
サイズが大きすぎてシャツの布地がずれて左肩が露出しているし、何なら着ているブラジャーの
だが、ユナはまるで気に留めていないのか、こてんと小首を倒して、
「ダメだった?」
「ダメじゃないけど……サイズあってないだろ」
「これがいい」
「……まあいいけどさ。午後出かけるときは流石に着替えろよ?」
「ん」
外にその恰好で出すわけにはいかない。
それだけ約束してくれるならTシャツを借りられるのは構わなかった。
ユナも隣に座って、自分の荷物を纏めた段ボールを開封していく。
カッターの扱いが妙に上手い。
手際よく段ボールを開封していき、中身を取り出す。
ユナの荷物も俺と同じく服や小物がほとんど。
女の子だからか量は俺よりも多い気がするものの、あまり違いはない。
だけど……
「あの、ユナさん」
「なに?」
「一応俺も男なので……下着の類を広げるのは勘弁していただけると大変ありがたいのですが」
「?」
俺の切実な呟きに、ユナは首を傾げるのみ。
ユナの近くには色とりどりの綺麗に畳まれたソレが並んでいる。
しかも隠す気のない置き方のため、どうやっても目についてしまう。
白系が多いんだな……なんて、余計な情報を得てしまった。
一緒に暮らす幼馴染の下着の種類を把握してるとか、控えめに言って変態だ。
「ユナは見られても一向に構わない」
「俺が構うんだよなあ……」
目を逸らしつつ、ため息混じりに漏らす。
俺とユナは幼馴染で、昔から一緒にいた。
小学生くらいのときは二人でお風呂に入ったこともある。
でも、それは昔の話。
今は二人とも高校生で、相応に身体と精神が成長している。
だから昔のような関わり方は避けるべきだと思っていたのだが、ユナは全く気にしていないらしい。
ユナには
「でも、エイジはユナの裸見たことある」
「昔の話な」
「これから一緒に住むんだから、洗濯をするときに気にされても困る」
「それはそうなんだけどさあ……」
「どうせ毎日隣で寝るんだし」
「…………」
「それとも……やっぱりユナと一緒に暮らすのは嫌?」
「それはない」
その問いにだけは即座に否定する。
「俺はユナと一緒にいたいからいるんだ。もし罪悪感を感じてるって言うなら、今ここで捨ててくれ。そうじゃないとやりにくいし、
真正面で見つめつつ、ユナに言う。
そりゃあ人間同士、長いこと一緒にいれば嫌なことの一つや二つはあると思う。
俺とユナもそういうことはあったけど、本質的に拒否感を抱いたことはない。
ユナはほんのわずかに目を見開いてから、頬を緩めて頷く。
「……ん。じゃあ、家と同じように過ごす」
「そうしてくれ」
「だからお風呂上りに裸でいてもいいよね」
「それはやめろ」
「冗談だよ?」
「冗談に聞こえないんだよ……」
割と本気で身構え、風呂のときは気を付けようと頭の片隅にメモを残し、荷物の整理を再開する。
買いそろえるのが面倒な調理器具や食器などは引っ越す前に揃えて運び込んでいた。
キッチンの収納スペースへ使いやすいように整理しつつ仕舞う。
二人で作業をして、段ボールの箱が消える頃には午後の一時を過ぎていた。
「とりあえずこんなもんか。おつかれ、ユナ」
「エイジも。お昼どうする?」
「あー……どうせ買い物行くし、ついでに食べてくか?」
「ん。じゃあ用意する」
ユナは着替えのために部屋へ行き、その途中で振り返って、
「ね」
「なんだ?」
「一緒にいてくれて、ありがと」
唐突な感謝の言葉と、緩い微笑み。
その笑顔にどきりと胸を鳴らしつつ、俺がいるにもかかわらずTシャツを脱ぎ始めるユナから慌てて目を逸らすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます