第37話 予想外の結果

 一先ず先生と呼ばれていることは置いておいて、遊んであげたい気持ちは山々なんだが俺には動けない事情がある。それは初対面なのに告白を通り越してくる女の子が一人、それとある男の子が一人、この二人によって俺の動きが制限されているからだ。


「わたしせんせーのおよめさんになる!」


 こちらに来た時からずっと俺の右足にくっついてそんなことを言っている。上目遣いでニコッとして俺を見ているその姿は咲ほどではないが、同い年の子なら好きになってしまうんじゃないかと思うくらいの可愛さがある。

 そして極め付けはこの言葉だ。俺としては嬉しいがこんなのパパが聞いたら少なくとも三日は落ち込むぞ。咲が他の男の子にこんなこと言っていたら俺は少なくとも一週間は落ち込む自信がある。

 ちなみに左足には大輝くんがくっついている。いつからかというと、他の子が砂場にやってきた時からである。


 女の子になんて答えていいか分からない俺が困っていると異議を唱える声が聞こえてきた。


「おにーたんはさきのだよ!だからだめなの!」


 見るからにぷんぷんしているのが分かる。怒っているのに可愛いんだよ。確か夏休みの始めもぷんぷんしていたな。その時のことを思い出そうとしたがそんな時間はなかった。


「せんせーはわたしの!」「おにーたんはさきのなの!」


 俺のことで二人が争っているではないか。これは青春か?なんて悠長なこと言ってる場合じゃないな。


「二人とも落ち着いて、ね?」


「「やだ!!」」


 即答であった。しかし俺にはある解決策があったのだ。


「それじゃあこのカップを使って綺麗な形が作れた方が勝ちにしようか」


 すると二人はそれぞれカップを手に取り、そこに砂を詰めて型抜きを始めた。しかし砂を詰める力が足りなかったり、勢いよくカップをひっくり返すことができなかったりで形が崩れてしまい上手いこと綺麗な形を作ることができずにいた。


 これこそが狙いである。俺の見込み通り綺麗な形を作るのは中々難しいだろう。それに二人とも綺麗な形ができたとしたら引き分けにすればいい。もし一人だけができてしまったときは…… 誤魔化そう。誤魔化すのは普段咲を相手にしているので得意なんだ。


 と思っていたんだが、なんかよく分からないことになっているぞ。二人で競っていたはずなのに何故か他の子までカップを手に取り型抜きをし始めていた。大輝くんだけが変わらずに俺の足にくっついていた。


「せんせー!みてみてー!きれいにできたー」


 どうやら勝負に参加していなかった一人の女の子は完成したらしい。


 うん。めっちゃ綺麗にできてるな。


 ……焦るな俺。まだあの二人が完成していない以上決着はつかない。そうだ、俺は早い者勝ちだなんて言っていないもんな。


 そうして待つこと四分くらい、ようやく二人とも満足いったようで完成したことを知らせてくれた。二人の出来は本当に同じくらい綺麗にできていた。そしてそれは先程の女の子や他の子にも負けず劣らずであった。

 俺は誤魔化すのは得意だと思っていたがこの状況でどう誤魔化したらいいのか分からなかった。二人だけならまだしも何故か他の子まで俺の判定を待っているのだ。


 子ども達が納得してくれるかは分からないが、俺の中のベストアンサーを言おう。


「どれもみんな綺麗にできてい——ん?」


 まだ言い始めたばかりだというのにもうクレームが来るのかと思ったが、そのお相手は大輝くんだった。


「どうしたの?」


「とーる、みて」


 大輝くんが指差した場所には綺麗に型抜きされたものが三つ並んでいた。


「ぼくすごい?」


 いつの間に作ったのか、俺がなんて言おうか考えていた時か?全然気づかなかった。しかし大輝くんのおかげで新たないい答えが思いついた。


「うん!これは大輝くんが一番かな!みんなも上手にできてたけど大輝くんは三つも作ったからね」


 すると子ども達は自分の方がよくできたとは言わず、素直にすごいと大輝くんを褒めた。


「それじゃあ頑張った大輝くんに拍手!」


 みんなから拍手をもらった大輝くんは恥ずかしくなったのか再び俺の足にくっついて顔を隠してしまった。その後型抜きが再開したのだが、先程の拍手でこちらに気づいたママさん達が子ども達に帰るよと声をかけたのでみんなで手を洗い解散となった。


 予想外ではあったが大輝くんのおかげで事無きを得た。あの後咲とあの女の子には何も言われなかった。大輝くんが三つも作ったのを見て勝負のことなんて忘れてしまったのだろう。その証拠に同じように三つ作ることに必死になっていたからな。


 何事もなく終われて良かった。


 それにしてもほんの少しの間とはいえ先生と呼ばれていたが、先生というのはとてもすごいなと思った。これよりも多い人数の、それも個性の違う子ども達の面倒を見なくてはいけないのは大変だろう。


 俺は三人の子どもを連れて文香さんと恵さん、それから先生の元へと戻っていくのだった。

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