第25話 乃々花の反省
私たちは今駅近くのファミレスにいる。高校から歩いて15分くらいかかるこの場所に来るまでに私と愛華は一切言葉を交わすことはなかった。
目の前に座っている愛華は今までにないくらい怒っている。その理由は言わずとも分かるが。
「ねぇ、どうしてあんな態度を取ったの?」
「あんたのためを思ってだけど」
「いつも乃々花が私のためにしてくれてるのは知ってるよ?でもさっきのは違うと思う。初めて会った人への態度じゃないよ」
「確かにそうね。初対面の人への態度ではなかったわ」
「ならあやま――」
「まだ謝る気はないわ」
私は愛華の言葉を遮って答えた。
「どうして?徹くんが何か悪いことした? してないでしょ!」
少しずつ声が大きくなっていく愛華に少し静かにしなさいと言ってから私は私の思いを伝え始める。
「愛華は徹くんの何を知ってるの?どういう人なのかちゃんと知ってるの?」
「え?いや、まだ何も……」
「そうでしょうね」
「だって話したのだって今日で二回目だし、まだ分からなくて当たり前じゃない!」
「そう。だから愛華は自分のペースで徹くんのことを知っていけばいいと思うわ。けど私は愛華のように徹くんに恋をしてるわけじゃない。だから私は徹くんにどう思われてもいいの。
私はね、中学の時に愛華が嫌な思いをして家に閉じこもった時に決めたの。変な男が近づかないように、もう二度と嫌な思い、怖い思いをさせないようにしようって」
「…………」
まさかこんな話になるなんて思わなかったんだろう。愛華は何も言わず、いや私にかける言葉が見つからなかっただけなのかな、ただ黙って私の顔を見ていた。
私はそんな愛華を見てクスッと笑った。
「私はただ愛華のことが心配なだけよ。愛華も私も徹くんがどんな人なのか知らない。もしかしたら徹くんも周りと変わらない変な目で見る人なのかもしれない」
愛華は声に出さないまでも身を乗り出して目でちがうと訴えてきたが私は話を続ける。
「だから私は愛華に嫌な思いをしてほしくなくて確かめるように徹くんに接したの。初対面の人にあんな態度とったらそれは失礼だと私も分かってる。それでも私は愛華が幸せになるなら周りに最低だと思われようが気にしないし、愛華に分かってもらえなくても構わないわ。私は愛華を守ると決めたから」
私はドリンクバーから持ってきたアイスティーを一口飲み一息つく。
するとここまで黙って話を聞いていた愛華が口を開く。
「私何も考えてなかった…… 自分がまた嫌な思いするかもしれないって考えもしなかったし、徹くんがいい人なんだって勝手に思い込んでた」
「それほど夢中な相手なんでしょ? 愛華は気にせず自分の思うように行動すればいいのよ。何かあった時は私が助けるから」
「乃々花ありがとう」
ここで私たちが頼んでいた品が運ばれてきた。愛華の前にはチョコパフェ、私の前にはティラミスが置かれる。
食器を手に取りそれぞれ食べ始める。
「ねぇ乃々花も連絡先交換したのも?」
「そう。もし二人が出かけて何かあった時に二人の共通の人に連絡が取れた方がいいと思って。それに私も徹くんのことはちゃんと知っておきたいから」
「そこまで考えてくれてたなんて私は幸せ者だね」
「あんただって普段は考えてるじゃない。それなのに徹くんのことになるとねぇ~」
「そ、それはしょうがないの!」
「はいはい」
私たちはいつもの調子に戻り、笑い合う。
「でも乃々花に考えがあったとしても流石にあの態度はよくなかったと思うよ?だからそれは徹くんにちゃんと謝っておいてほしいな」
「……少し考えるわ」
「それとね、どう思われてもいいなんて言わないで?気持ちはすごく嬉しいけど、私のために乃々花が傷つくようなことを進んでやるのはだめ。ね?私にとって乃々花は本当に大切な人なんだから」
「ありがとう。分かったわ」
「うん!」
そうして私たちはたわいもない話をしながらデザートを美味しく頂き、あっという間に夕暮れになってしまった。
愛華と別れ、家に帰った私はお風呂に入る。
湯船に浸かりながら徹くんへの態度を振り返った私は――
「やっぱりやりすぎたよね……」
警戒心剥き出しで初対面なのにあんな失礼な態度で、まだ何も徹くんのことを知らないのにクズなのって。
愛華には私は周りに最低だと思われてもいいと言ったけど、今日のは愛華のためとか関係なく普通に最低な奴だった。いくらでも相手のことを知る方法はあるのに私は間違ったやり方をしてしまった。
話し始めた頃は私も熱くなっていてまだ謝る気はないと言ったが、後半にはその熱も冷めて自分の行動が間違いだったことに気づき、そんな自分をとても恥じた。そして愛華には少し考えると言ったがその頃には謝ろうと思っていた。
私はお風呂から出てパジャマに着替えてベッドにダイブする。
そして再び今日の出来事を思い出す。
あの時愛華が夏休みに出かけようと誘った時、徹くんは曖昧に答えたように思う。何か言えない理由があるのかもしれない。
それを聞こうともせずに愛華を優先しろといい、挙げ句の果てにはクズと言ってしまった。
よし、謝ろう。
私はLINKのアプリを開き徹くんにメッセージを送る。
次からは間違わないように気をつけようと改めて反省し、徹くんからの返信が来る前に眠りについた。
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