元カノの娘と付き合う

青水

第1話 

修正:スマートフォン→携帯電話

17年前にスマートフォンが存在しなかったことを失念していました。m(__)m

――――――――――


 仕事帰り、会社近くの公園のベンチに座ってビールを飲んでいると、一人の女子高生が視界に入った。その子を見て、俺は中学・高校時代に付き合っていた彼女のことを思い出した。その子は由香によく似ていた――。


 ◇


 山川由香は俺の幼馴染だった。

 幼稚園、小学校、中学校、高校が同じで――中学一年生のときに、俺たちの関係がただの幼馴染から恋人へと変わった。

 告白は確か、俺がしたんだったと思う。オーケーの返事をもらえたとき、俺は死ぬほど嬉しかった。もしかしたら、あのときが人生の絶頂期だったのかもしれない。


 俺たちの関係は、高校一年生のときに終わりを迎えた。

 由香の浮気が、その原因だった。

 俺は由香が浮気しているとは露ほども思わず、のんきに日々の生活を送っていた。そんな俺に衝撃の事実を――残酷な現実を教えてくれたのは、中学からの友人である水野だった。


「和真、このことを伝えるべきかどうかすごく悩んだんだけどな……」


 そう前置きして、水野は話し始めた。

 昨日、水野が買い物に出かけたところ、恋人のように仲良さげに買い物をしている由香と弘樹を発見した。弘樹というのは俺の友人である。といっても、高校に入ってからの友人だから、歴は半年にも満たない。

 水野は二人の仲を訝しみ、尾行を開始した。二人は友人同士では絶対にしないような、体を密着させた恋人つなぎをし、なんとラブホテルに入っていったというのだ。


「ホテルに入るのは、どう考えても『黒』だろ」

「そう、だな……」


 水野は念のために写真を撮っておいたとのこと。見せてもらう。二人が恋人つなぎをして楽しそうに歩いている写真、ラブホテルに入っていく様子を写した写真などなどがあった。証拠写真を見せられると、現実を直視せざるを得ない。


「なあ、お前もその……ホテルとか行ってるのか?」

「いや、行ったことない」


 俺が否定すると、水野はほっとしたような顔をした。微妙に腹立たしい。

 由香が弘樹と浮気していることはもちろんショックだったのだが、何よりショックだったのは由香と弘樹が肉体関係にあることだ。


 いくら俺が知識に乏しい男子高校生とはいえ、ラブホテルがどういうことをするホテルなのかはもちろん知っている。ラブホテルに入ったら絶対にセックスしなければならない、という法律はないが、高校生の男女が決して安くない金を払ったのだ、してるに決まっている。


 するべきではないとはわかっているのだが、由香と弘樹が抱き合っている想像をしてしまう。それは自動的に、半ば強制的に、頭の中のスクリーンに再生された。異様に生々しい映像だった。

 眩暈が、した。


「なあ、どうするよ、和真?」水野が問いかけてくる。「山川と弘樹に直撃してみるか?」

「ああ、うん……」


 浮気の事実を知ってしまった以上、なあなあにはしておけない。気が進まないものの、直撃は避けては通れない。

 朝の教室には、まだ半分くらいの生徒しか来ていない。由香と弘樹もまだ来てない。そういえば、最近、由香と一緒に登校してないな、といまさらながらに思った。もしや、由香は弘樹と一緒に登校しているのでは……?

 ドアが開いて、弘樹が入ってきた。


「おはよう!」

「「お、おはよ……」」


 俺と水野の返事は、いつもと調子が違っていた。声が震えているというか、不安定に揺れているというか……。

 弘樹は自分の席にバッグを置くと、俺たちのもとへとやってきた。

 俺と水野の様子は明らかにおかしかったので、当然、弘樹もそのことに気づいた。


「どうしたんだよ、お前ら?」


 弘樹はいつものように朗らかに笑っている。

 この表裏のなさそうな弘樹が、まさか俺の彼女と関係を持っているだなんて……。人間には残酷な二面性があることを、俺は高校生にして身をもって知った。知ってしまった。


「おい、和真」


 水野は小声で言いながら、肘で小突いてくる。

 俺は深呼吸をして覚悟を決めると、


「弘樹……お前、由香とどういう関係なんだ?」

「は? どうしたんだよ、突然」


 弘樹は笑みを崩さない。内心はわからないが、表面上は一切動揺していないように見える。


「いいから答えてくれ」

「……女友達ってとこかな」

「女友達、ねえ……」


 俺はため息をつく。それから、弘樹のことを見据えると、


「俺が由香と付き合っていることは、もちろん知ってるよな?」

「ああ。そりゃあ、ね」

「幼馴染ということは?」

「それも知ってるよ」

「……それらを知ったうえで、お前は由香と関係を持った」

「関係を持った? 何言ってるんだ、お前?」


 弘樹の口元から笑みが消えた。余裕がなくなってきたのだろう。


「いつからだ? いつから由香と――」

「関係なんてないよ。誤解だって!」

「何が誤解なんだよっ!?」


 俺は声を荒げて言うと、黙って話を聞いていた水野に頷きかけた。

 水野は携帯電話で撮った写真を、まるで印籠のように弘樹に見せつける。


「観念しろよ、弘樹。証拠はちゃんとあるんだよ」

「くっ……うっ……」


 恋人つなぎでラブホテルに出入りするという決定的な証拠を見せられ、さすがに言い逃れることができなくなった。

 言葉に詰まった弘樹は、顔に脂汗をにじませながら、興奮したように荒々しい呼吸を繰り返している。過呼吸でぶっ倒れてもおかしくなさそうだ。

 弘樹からいろいろ聞き出してやろう、と企んでいると――。


「おはよ」


 いつものように言って、由香が教室に入ってきた。

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