第11話 シールド戦隊の日常1

 鏡の怪人。一連の事件から推察出来たのはそういう仮説だった。時間的なもの、距離的なものを考えれば、二人いるか、高速で鏡の中を移動出来るかである。犬塚さんによると、前者の方が助かると言うことだ。とにもかくにも新たな怪人、しかも中級以上の怪人が出たのである。これはじっとはしていられない。シールド戦隊の出番というわけだ。


 俺は帯人。シールドレッドをやらせてもらってる。それまでは消防署で働いていた。最初、手紙が来た時は驚いたが、俺はすぐに受け入れられた。元々人々を火災から守る仕事をしていたからだ。火が怪人に変わっただけだ。俺の力が役立つなら喜んで使ってもらいたい。


 今は鏡のある場所を手分けして探しているところだ。と言っても、鏡のある場所なんて無数にある。男でしか入れない場所、女でしか入れない場所もあるから厄介だ。俺はショーウィンドウがたくさんあるショッピングモールに来ていた。




(日中は光が反射していてわかり辛いな)




 中に飾ってあるものじゃなくて、ガラスそのものを注意深く見ながら思う。そう、ガラスも鏡のように我々を映し出している。だからしっかりチェックしなければならない。




「ねぇ、あの人、変な顔してる」


「ダメよ、見ちゃ」




 子供に指差されて気付く。どうやら顔を、身体を引っ付けすぎていたようだ。人の流れが俺を避けるように楕円状になっている。


 仮にも俺はヒーローだ。誤解を上手く解かなければ。




「ああー、皆さん。私は今、怪人を調査中でして」




 とりあえず、周りにいる人から説得にかかる。しかし、円が少し広がったような気がした。




「ちょっとお兄さん。商売の邪魔になるのでどいて頂けますか」




 店員さんに怒られてしまった。




「いや、実は怪人を・・・・・・」


「いいからどいて下さい」


「はい」




 どうにも伝わらないものである。




「ハールハルハルハルハルハルー」




 と、突然怪人が現れた。黒いやつ、つまり下級怪人だ。やはりこの近くに鏡の怪人がいるのかもしれない。


 怪人達はこの店に集まってきている。この店に何かあるのか。ともかく人々も混乱している。今いるやつを退治しなければ。相手は三人。三人なら一人でも戦える。




「シールドレッド、変身」




 ボタンを押すと、スーツが俺の全身を覆う。子ども達が拍手で迎えてくれている。




「赤きスーツは正義の印。シールドレッド、悪を打ち砕く」




 ポーズを決めると、大人も混じって拍手をくれた。なんか気分良いかも。


 ぐはっ。


 怪人に思いっきり殴られた。油断大敵。下級怪人と言えど、三人いる。油断してたらボコボコにされてしまう。俺は改めて身構える。今は三人に集中だ。


 人が多いから飛び道具は使えない、か。シールドガンは使えそうにないな。とするとイージスシールドか。




「赤き大盾、イージスシールド」




 パチパチパチパチ。


 子ども達が騒いでいるのがわかる。いや、今は三人だ、っと。怪人Aが俺の隙を突いて跳び蹴りしてくる。油断はしていない。俺は大盾でガードする。


 グギッ


 怪人Aの足がへし折れた。イージスシールドは相手の力を三倍に返す力があるのだ。シールド戦隊最強の盾だ。




「バード」




 怪人Aはそう叫んで矛になった。下級怪人達は言葉が話せないため、同じような言葉を話す。基本は「ハル」で、やられた時は「バード」だ。そしてやられると矛になることからハルバード怪人と呼ばれている。


 さて、後は二人だ。下級怪人は単純だが、知能はある。この盾に同じような攻撃はしてこないだろう。


 イージスシールドは盾としての機能は高いが、持ちながら戦うのが難しいのと、攻撃手段が少ないのが特徴である。しばらく待つが、警戒してなかなか攻撃してこない。ならば、




「シールドエッジクラッシュ」




 盾の先端を使った攻撃だ。持ったまま移動してもバレバレなので盾を放り投げる。案の定、敵の視線が盾にいった。すかさずダッシュで近付いて、二人をまず引き離す。そして盾を取り、倒れている方に振り下ろした。




「バード」




 怪人Bが矛になった。残すはあと一人だ。


 一人なら盾を使われなくても勝てるが、せっかくなのでそのまま使う。持ち運ぶのは大変だが、背負ってしまえば。




「レッドモードチェンジ。はいじゅんの型」




 大盾を背負う型だ。それだけに思えるかもしれないが、全然違う。三倍に跳ね返す力を利用して超跳躍が出来るのだ。




「回転跳躍」




 立ったまま前回りして、背中の盾に衝撃を与え、超ジャンプする。




「からのー、スーパーチョップ」


「バード」




 怪人Cも矛になった。全ての怪人をやっつけると、たくさんの拍手に包まれた。




「あ、どーもどーも」




 やっぱり気持ちいい。子ども達が寄ってくる。




「ねぇねぇこれ触って良い」




 そんな子どもの声が聞こえたのでそちらを向くと子どもが怪人の矛に触ろうとしていた。




「ダメだ。絶対に触るな」




 大人気も無く、大きな声を出してしまう。子どもが泣いてしまった。しかし、触らなかったのならそれでいいのだ。あの矛に触るのは危険なのだ。矛に取り込まれ、怪人になってしまう恐れがある。俺は三本の矛を集めて一本ずつ折る。すると、三本の矛は蒸発するように消えていった。


 そしてすっかり忘れていたが仲間達に連絡を取った。




「怪人が現れた。下級怪人だが、この辺りにボスが潜んでいるかもしれない」




 帯人から連絡をもらったのですぐに向かう。自分が探していたところには何も無かった。


帯人はどうやらショッピングモールにいるようだ。


 俺の名は守人。シールドブルーをやらせてもらってる。ちょうど職を無くして途方に暮れていた時期に戦隊の案内を受け取った。特に断る理由もないので引き受けることにした。職を無くした理由が怪人のせいだってこともある。怪人に会社を壊されたのだ。ちょうど会社が取引先を無くして皆で再出発をしようとしていた時期だった。小さな会社だが風通しの良い、良い会社だったってのに・・・・・・。


 俺は怪人を憎んでいる。理由は簡単だ。大好きだった会社を潰されたから。ただ一方で、そんな俺には悩みがあった。その憎んでいる怪人に自分自身がなりかけているというものだった。スーツを着ている時は発作が治まる。だから基本的に俺にはスーツが必要で、手放せない状態だ。もちろんずっと着ているわけではないが。




「ちょっと帯人、あなたスーツのまま何やってるの」




 集合時間には4人がほぼ同時に来た。と、その瞬間に玲奈の怒声が飛ぶ。帯人がスーツのまま子ども達と遊んでいたのだ。




「いや、その・・・・・・」


「言い訳しない。子どもに怪我させたらどうするの」


「はい、すみません」




 戦隊というとレッドがリーダーをやっていると思う人が多いと思うがうちは違う。




「で、この店に怪人が集まってきたってこと」


「ああ、うん。そんな感じだ」


「そんな感じってどういう事。違うの」


「いや、その、中まで入ってないから」


「そうなのね。ったく、なのに子どもと遊んでいた訳ね」


「うっ」


「いい。じゃあ、帯人と私は店内。ブルーはショッピングモールの左側。達彦と星那は右側を探索して頂戴。何かあったら連絡する。何も無ければここに集合。いい」


「「「「ラジャ」」」」




 見ての通り、ピンクが仕切っている。いつの間にかそうなっていた。まあ、適正というやつなのだろう。


 俺は言われた通りショッピングモール正面左側を調査する。一軒一軒丁寧に。あまり男性が入りそうもない店もあったが、これも仕事だ。我慢して調査する。


 俺のスーツの題目は勇気だ。スーツを常時着るようにしないのも、こういう店に入るのも勇気だ。




「あの、ここ男性の入店をお断りしているんですが」




 と、勇気は出してみたものの、先方から断られてしまう。確かに、よく見ると女性の下着が多い店だ。




「すみません。シールドガードの者なんですが、今この辺りに怪人が潜伏している可能性がありまして、調査の依頼を申し上げたいのですが」


「シールドガード・・・・・・。あの戦隊の。この店に。怪人が」


「いえ、この店にいるかどうかは調査しないとわかりませんが」


「出てって下さい」


「えっ」


「営業妨害です。出てって下さい。男性の入店もお断りです」




 断られてしまった。




「ハールハルハルハルハルハルハルハルハル」




 するとすぐに下級怪人が二人出てきた。俺はすぐに仲間に連絡する。




「ごめん、こっちにも出てきた。俺たちは向かえない」


達彦だ。こんなにもチョロチョロ出てくるのはおかしい。このショッピングモールには確かに何かがあるのかもしれない。


「こちらは下級怪人二人だ。俺一人でもなんとかなる」


「OK.達彦、そっちは」




 玲奈の声だ。




「今星那も来たけど、二人じゃまずいかも。たぶんこいつ上級怪人」


「了解。帯人は人々の避難を。私はすぐに向かう。守人はなんとか一人でお願い」


「「「「ラジャ」」」」




 やはり上級怪人がいたか。だとするとこんな奴らに手こずってもいられない。すぐに片をつけよう。


「シールドブルー、変身。シールドソード」




 俺は駆け出しながら変身し、すぐに武器を取り出した。




「ハルー」




 斬られた怪人Aが叫び声を出す。が、「バード」ではなかった。仕留めきれなかったらしい。いつもなら仕留められるのに・・・・・・、そうだ。




「蒼き勇気は元気の源、シールドブルー、行く」




 題目を言うのを忘れていた。これがないと力が半減してしまう。とまあ、言ったのは良いが、敵の近くでやってしまったため、怪人Bが襲いかかってきた。




「ハルー」




 俺は後ろから羽交い締めにされてしまう。そして、怪人Aが続いて攻撃してくる。




「ハルハルハルハルハル、ハルー」




 腹に数発くらい、最後に左フックを思いっきりもらった。勢いで飛ばされてしまう。下級怪人と言えども一般人より強い超人だ。さすがに効く。


 相手を警戒しながらすぐに立ち上がる。こちらも次がある。あまりのんびり戦ってはいられない。




「ソードクラッシュ、一の型」




 剣を目の前で中央から右へ倒し、その後左手で剣を覆うようにして左へ倒すとエネルギーが溜まり、剣が輝く。そして、そのままの状態で構え、飛び込んで接近する。一の型は十字斬りだ。




「バード」




 怪人Bが矛になった。




「二の型」




 二の型は威力よりも速度重視のX斬りだ。右上から左下へ、そして右下から斬り上げる。




「バード」




 怪人Aも矛になった。とりあえずこの場はこれで収まった。しかし、上級怪人が出たとのことだ。すぐにでも駆けつけなければ。俺は矛を壊すのを忘れずにやり、仲間の元へ向かった。


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