第26話 必殺技?
「ま、不味いぷち」
あいつが魔神の血瓶を取り出してから、ピンク猫が見るからに焦っている。不味いって言ってるし。
そんなにやばい物なのか?
自分で地面に叩きつけていたから、ポーションみたいな物ではないみたいだが。
「っ!」
飛び散った赤い液体が、ぐにゃぐにゃと蠢き中心に集まっていく。
まるで液体が意志を持っているかのような異様な光景。沸騰しているように膨れ上がっては萎んで、独りでに動いている。
あれは……人の形をしているのか?
そして形を作っていき、瞬く間に大きな怪物となった。
狼のような頭に鬼の体をつけたような異形。真っ赤な瞳で魔法少女さんを睨みつけている。
明らかに最初の液体から量が増えてる。小さな瓶に入っていた液体とは、思えないほどに大きい。
こんな怪物が生まれるとか、何なんだよ魔神の血って!
「グガアアアアアアアアアァァ!!!!」
怪物の産声、化け物の雄叫びが周囲に響き渡る。
空気がビリビリと震えて、耳が痛くなるほどの声量だ。そんな大きい声出したら人が集まってくんだろうが。
「こいつは魔神様の血肉から生み出されし古の魔獣。魔法少女のお嬢さんでも一筋縄では行くまい」
血から魔獣が生まれるなんて、魔神ってどれだけヤバい奴なんだ!?
身長の高い銀髪魔族の倍のでかさはある。
あんな怪物、魔法少女さん1人でどうにかなるのか?
もしもこんな化け物が誰かに見られたら、大騒ぎになるのは避けられない。誰かが来る前にどうにかしたいが。
魔法少女さんも、突然現れた怪物に唖然としている。
「ふぅ……よし」
だが、何かを決意するように息を吐くと怪物に向かって走り出した。
「はぁっ!」
バネのように飛び上がり、しなやかな蹴りを放つ。またキラキラと星が舞った。魔法少女さんの攻撃は、全て衝撃波が発生するのかもしれない。
「グガァ!!」
怪物は鬼のように太い両腕でそれを受けると、魔法少女さんを弾き飛ばした。
魔法少女さんの攻撃をものともしない化け物。
俺の心配をよそに、彼女は空中でくるりと回転しながら勢いを殺して着地した。ダメージがあまり無さそうでよかったが、それは怪物も同じだ。
強そうに見えた銀髪魔族でさえ、魔法少女さんの物理攻撃にダメージを受けていた。
それなのに、あの怪物は魔法少女さんの蹴りでダメージを受けているように見えない。
弾き飛ばされた魔法少女さんを怪物が追撃する。象のような巨体で飛び上がり、大きな拳を上段から振り下ろした。それを魔法少女さんが後ろに飛んで避ける。
ドゴオオオン!!
アスファルトに亀裂が入って、隕石が落下したようなクレーターが出来上がった。
なんて力をしてるんだあの化け物。離れている俺たちにも衝撃が響いてきたぞ。
あんなのが当たっていたら、考えるだけで背筋が凍る。
俺なら足がすくんでしまうような攻撃をされながら、魔法少女さんはまた怪物に向かって駆け出した。
魔法少女さんと怪物は、今のところほぼ互角。いや、戦いは拮抗しているが、銀髪魔族のときと違って押されているのは魔法少女さんの方だ。
まだ魔法少女さんには魔法があるが、それも効くのだろうか。衝撃波と共にキラキラと星の舞う打撃は、効いていないように見える。
銀髪魔族はただ見ているだけなのが現状唯一の救いか。
魔法少女さんがまた弾き飛ばされてしまった。
どうする。
このまま決着がつかなければ、誰かに見られてしまうかもしれない。それ以前に魔法少女さんがあの化け物にやられてしまう可能性だってある。
銀髪魔族もいつまでも静観しているだけとは限らない。
……人間の姿になって一緒に戦うしかない、か。
俺の魔法にあの怪物を倒すだけの力があるか分からないが、やらないよりはマシだ。
「はぁ……はぁ……ぷちちゃん!」
不意に魔法少女さんが叫んだ。ぷちちゃん、ピンク猫のことか。
「あれやるよ!」
「わかったぷち!」
ピンク猫もそれに応えた。
あれって、何をするつもりだ?
魔法少女ならありそうだとは思っていたが、本当にあるのか、奥の技、必殺技が。
怪物がいるにも関わらず、何かに祈るように目を瞑って魔法の杖を両手で構えた。まるで黙祷しているみたいな感じだ。
その祈りに応えるように、魔法少女さんが優しい光に包まれた。先程、魔法の杖を出した時とはまた違った光り方。
綺麗だ。
見るものに神聖さすら感じさせるそんな輝きの中に魔法少女さんがいる。
俺の横にいるのは変わらないが、ピンク猫も光りながら目を瞑って集中していた。これがさっきピンク猫の言っていた、魔力を供給している状態か。
「あっ」
目を瞑っている魔法少女さんに向かって、怪物が吠えながら駆け出した。
「危ない!」
丸太のように太い腕を振り上げ、その拳を無防備な魔法少女さんに叩きつける。けれど、その攻撃が当たることはなかった。
「グガァァァ!!」
繰り返し殴りつけているが、全て魔法少女さんを包んだ光に阻まれている。魔法少女さんを包んだ光が壁になっているのか。
人間なんて簡単にぺちゃんこに出来そうな怪物の攻撃が光のベールに何度も弾かれる光景に開いた口が塞がらない。
光に包まれた中で魔法の杖が一際、強く光り輝いた。
「ふぅ、これで大丈夫ぷち」
横を見るとピンク猫の光は既におさまったいる。だいぶ疲れているようだが、かなりの魔力を魔法少女さんに渡したのかもしれない。
必殺技を放つ準備は出来たみたいだな。
この体になったからなのか、魔法少女さんが物凄いエネルギーに包まれているのがわかる。これが魔力なのか?
相変わらず神々しい光を身にまとっている魔法少女さんが煌めく杖を天に掲げて怪物を見た。
「女神のいかずち、アストラルクス!」
握りしめられた杖、それを力強く振り下ろした。
魔法少女さんの言葉と共に魔法の杖の先端から、巨大な光線が飛び出して怪物を覆い尽くす。
……凄い。
「グガアァァァアアァァ……」
魔法少女さんが杖から出した光線が消えると、怪物は跡形もなく消えていた。
倒した、のか?
倒したんだよな、殆ど一撃で。
これが魔法少女の力……。
強すぎじゃないだろうか。
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