第25話 魔法のステッキ

「お前、それ……」


 驚きに声が漏れる。

 俺の横に座りながら、一際存在感のある腹部の石、妖精石を眩しく輝かせているピンク猫。

 魔法少女さんのネックレスが光り出した瞬間、同じようにこいつの妖精石も光り出した。


 ピンク猫が眩しくて目がチカチカしそうだ。

 こいつは気にならないのか?

 あれだろうか、物凄く鼻の良い犬も自分の臭いはわからないのと同じ現象。


 意味は無いが自分の妖精石もどきを確認する。うん、光ってないわ。

 俺のも光ってんじゃないかと思ったが、そんなことはなかった。

 いや分かってはいたけど、確認したっていいじゃないか。


「どうかしたぷち?」


 当の猫はお腹に光り輝く石があるのに気にした素振りもない。至って平然と俺の方を向いて首を傾げている。

 俺なら自分のお腹にある石が光りだしたらめっちゃビビるが。いや、お腹に妖精石なんてものがある時点でビビってる。まだ慣れない。


 こいつの様子を見る限り、妖精石が光るのは普通のことなんだろう。


 気になるのは、魔法少女さんのネックレスと同時に光り始めたことだ。

 こいつの妖精石と魔法少女さんのネックレスは見えない何かで繋がってるのか?

 契約者とか言ってたしな。


 俺にも契約者、誰かと契約したら同じことが出来るんだろうか。

 確実に出来るとは言いきれない。


 俺は今、妖精の見た目をしているが、変身しているだけの人間だ。

 そもそも、ピンク猫や昨日の青いクマと同じ機能が俺の体にも備わっているとは限らない。


 そういうのも分かれば便利なんだがな。生憎、女神のくれた能力の中に鑑定的なのはなかった。


「いや、なんでもない」


 あんまり驚くのはやめておこう。

 俺が妖精じゃないのがこいつにバレそうだし、今はそんなことよりも戦っている魔法少女さんの方だ。

銀髪魔族も攻撃の手を止めて、急に光りだした魔法少女さんに驚いている。


 一際、光が強くなった。


「あれは、杖?」


 魔法少女さんは光っているネックレスから引き抜くように、可愛らしい杖を出した。

 質量保存の法則やら色々ガン無視である。


 落ち着け俺。

 よく考えなくとも、人間だった俺が妖精になってる時点で、そんなことは今更だ。


 光り輝いていたネックレスの光も消えた。


 先端に大きな宝石、それに猫の耳らしき飾りがついたステッキ。

 ネックレスがどんな構造になってるのが気になるところだが、出てきた杖は魔法少女の使う武器って感じだ。

 所謂、魔法の杖って感じか。杖を完全に取り出したことによって、ピンク猫の光も収まった。


 魔法少女さんのネックレスと、こいつの妖精石がリンクしてるのは確定と思っていいだろう。


「じゃあ行くよっ」


 杖を右手に、魔法少女さんが飛び出す。

 そのままの勢いで魔族にステッキを振り下し、思い切り物理で殴りつけた。


 あ、魔法使わないんですね。


 その攻撃を躱さずに腕を交差して魔族の男が受ける。すると、その腕と杖の間に衝撃波のようなものが発生して、ホスト魔族が後方に弾き飛ばされた。

 キラキラと星のような物が舞う。


 一応、魔法は使っているみたいだ。ただ殴っただけじゃ、あんな風にはならないだろうし。


 可愛らしい魔法の杖を、まるで棍棒やらナイフのように扱って魔族へと攻撃している。

 明らかに使い方を間違ってるとしか思えないが、効いてはいるようだ。


 全体的に押しているが、まだわからない。

 どうやって倒すつもりなんだろうか。


「加勢しなくていいのか?」


 後ろで見ているだけで何もしないピンク猫に聞く。

 俺はこの姿だと何も出来ないが、こいつも妖精族ってやつなら青クマと同じく【妖精魔法】の能力を持っているはずだ。

 その能力があるなら、俺とは違って攻撃出来る可能性がある。


 この質問は賭けだ。

 聞かない方が変に怪しまれたりしないとは思う。

 けど俺の今後に関わることだから確認しないわけにはいかない。それに、妖精族の姿でも攻撃ができるなら是非とも聞いておきたい。


「ぷちぃ?」


 目をぱちぱちとさせてから、眉間に皺を寄せて俺を見るピンク猫。


「何言ってるぷち。そんなこと出来るはずがないぷち。僕らの役目は自分の契約した魔法少女に魔力を供給することぷちよ? その為の妖精石と女神様の祝福ぷち」


「そ、そうだったな」


 思った以上に話してくれた。

 また女神か。

 どの女神か気になるところだが、魔族の話していた女神と同じで間違いないだろう。けど、呪いじゃなくて、祝福。

 言葉は違うが、おそらく同じことを指しているんだろう。


 呪われる側の受け取り方によっては、祝福にもなるだろう。

 俺の【無病息災】だって、一生病気になれない呪いだと思えば、呪われた、と言えなくもない。


 俺は病気になんてなりたくないし、俺からすれば祝福でしかないが。つまりそう言うことだろう。


 魔族の言っていた事と合わせて、俺の予想が正しければ、妖精族は攻撃ができない呪いを種族的に受けてるってことになる。

 果たして、これは祝福か?


 結局、妖精族の姿で有効な攻撃方法はわからずじまいだが、まあいいだろう。攻撃できない原因の手がかりがあっただけでもプラスだと考えよう。

 幸いなことに俺が妖精族であることを疑われてはいないみたいだしな。


 後は魔法少女さんがあいつを倒してくれるか、だが何とかなりそうだ。

 気付いたら銀髪魔族が肩で息してる。ただ殴っているように見えて、魔法も発動しているし結構な威力があるんだろう。


「そのネックレスにその力。お嬢さんが魔神様の仰っていた魔法少女で間違いなさそうだな」


「それは知らないけど、魔法少女なのは間違いないよ、ほら」


 魔法少女さんの周りにたくさんのピンク色の星が現れた。


「話によれば、私の同胞がお嬢さんの世話に……」


「シャイニングスターレイン」


 魔法少女さんが軽く杖をふるうと、恐らく魔法少女さんの使った魔法であろう、キラキラと輝くピンク色の星の波が銀髪魔族に押し寄せた。


 魔法もちゃんと使えたのかよ。


「くっ!?」


 話を途中で遮られ、呻きながら銀髪魔族が魔法をバックステップで躱しながら爪で弾くが、何発か受けてしまったようだ。


 地面に着弾した星がコンクリートを砕いていく。全て当たったらひとたまりもないだろうし、あの数だ。

 そんな魔法があるなら最初から使ってほしい。


「ふっ、どうやら分が悪いようだ。妖精一匹仕留めるつもりが、魔法少女が相手ではな」


 肩から血を流しながらも、前髪をかきあげるのを忘れないのは流石と言うべきか。

 先程までかなりお怒りの様子だったが、魔法少女さんの強さに冷静さを取り戻したようだ。


「逃がさないよ」


「ふふ、美しすぎるのも困りものだな。逃げはしないさ」


 そういう事じゃねーよ。

 言いながら、懐からどす黒い液体の入った小瓶を取り出したホスト魔族。それにピンク猫が驚きの声を上げる。


「ぷちっ!?」


「知ってるのか?」


「あれは、悪い神、魔神の血瓶ぷち!」


「魔神の血瓶?」


 魔神の血瓶ってことは、血が入ってる瓶ってことだよな。言葉通りなら、魔神の血?

 そんな物で一体何をする気なんだ。


 考えられるのは、飲むと能力が上がるバフアイテム。これ以上強くなられたら厄介だが、血なんて飲むか?

 いや、魔神ってのを崇拝してそうな魔族なら有り得そうだ。


「お嬢さんの相手はこいつに任せておくとしよう」


 は?


 予想に反して、銀髪魔族はその小瓶を地面に叩きつけた。小瓶が割れ、中身が地面に飛び散る。

 一体なんのつもりだ。

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