十一月十七日 流星群***

***


 夜、屋上に出たときは、からりと晴れやかな気分だった。


 会社の経営は、坂道を転がるように悪化していった。

 いま思えば予兆がなかったわけじゃない。例えば鱗雲が大きくなって羊雲になったら雨の前触れだと知れるように、事前に察知することもできたはずだった。末端の平社員はともかく、少なくとも社長は気づいていたはずだ。

 傾いていく社運とは裏腹に、社長は独断で大胆な行動に出た。夏のボーナスの額を上げたり、福利厚生だと言って「おやつタイム」を設けたりした。

 毎月第四水曜の午後三時、本社の社員全員にケーキが配られるのだ。それもコンビニで売っている安物じゃない。一個七百円するデパ地下の高価なケーキだ。

 九月末日の決算日には納会という名の大宴会が開かれた。用意されたオードブルや酒はもちろん会社の経費だ。連日の残業や休日出勤でストレスが溜まっていた社員たちは、ここぞとばかりに高価な酒を水のように飲んだ。

 でもその頃には、もう手のつけようがないほど、会社の資金繰りは悪化していた。いま思えば、社長は業績悪化を社員にごまかしたかったのだろう。

 私がそれに気づけたのは、配属先が会計課だったからだ。


 私はひっそりと納会を抜け出し、屋上に立っていた。

 ここは都会の割に周りにビルが少なく、比較的よく空が見える。仕事中の息抜きに、私はよくこの場所を選んでいた。毎年十一月にはしし座流星群の流れ星を数えるのが恒例だった。

 だが、私がここでそれを見ることはもうないのだ。

 

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