十一月十日 水中花**
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緊張するな。面接官なんてみんなかぼちゃだと思えばいいんだ。
そう自分に言い聞かせ、どうにか内定を勝ち取った会社はとんでもないブラック企業だった。
激務なのに残業代はほとんど出ない。みんなギスギスしているから人間関係は最悪だ。全国に支社支店を持つそれなりに大きな企業だったが、どの支店も同じ調子でなかなか社員が長続きしないので、欠員補充のために別の社員が転勤を命じられた。本人の事情なんてお構いなしに飛ばされる。紙飛行機よりも軽々と。
特に秋口は繁忙期だった。九月末が会社の決算だからだ。オフィスの窓から漏れる秋の灯は、夜通し消えることがない。
げじげじ眉毛でどんぐりまなこの老社長は、うちの会社は業績好調だとのんきに笑っていた。新卒採用の若者たちが、入社三ヶ月で潮が引くようにごっそり辞めたのも堪えなかったらしい。全員に適切な残業代を払えば、一瞬で倒産するのに。
これは社歴の長い上司に聞いた話だが、過去には激務のあまり精神を病み、社屋裏の金木犀で首を吊ろうとして枝を折った人もいれば、業務時間中に突然神隠しにでもあったように行方をくらましてしまった女性社員もいたそうだ。
その女性は一週間後に、会社から少し離れたところにある河原で水死体になって発見された。
「当時、女の子にはピンク色の制服があってね。犬の散歩をしてた人が、水中に花が咲いてるみたいだな、って近寄ったら、うちの子だったんだって。怖いよね」
君は気をつけてよ。死んじゃあ何にもなんないからね。
冗談めいた言い方だったが、上司の目は笑っていなかった。
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