第25話 クッキーの正体
「ほらもっと食べろ」
「ならもう1枚」
「よしよし」
「なあこのクッキー本当に何?」
サクサクとしていて味も悪くない。ケーシャの反応が変でなければ気にならなかったのに。
「変なものではない。造血と増血に効果があるだけだ」
「俺の血を抜きまくるためのクッキーか!!」
がぁんと来たが毒ではないし眠りにつく物でもないのは間違いなかった。
「抜きまくるっていうか食べた方があとが楽だからな?」
早く確実に俺の血が造られ増えるのか。観念するよ。
そこまで考えていたとは。何が何でも人形を満たしたいんだな。……他人のためにすごいな。
しかし、段々どくどくと心臓が強く脈打つようになってきた。普段は意識しなくては感じない鼓動がそらそら! と主張してくる。
あまりにも強い鼓動は苦しさを感じる。左胸を押さえて体育座りをして丸くなる。
ふと背中に温度を感じた。
「大丈夫か?」
「そう思うなら、血を作ってまで抜こうとしないでくれよ。1日1滴とか」
「俺も少しずつと思ったんだがどうもタイムリミットがあるみたいで。入れ始めたら満たすたまで途中で止められる時間は半日くらいじゃなかということだ。なるべく途切れさせない方がいいのではないかという見解らしい」
本当に死体から入れる前提だ……。あまりにも元気よく跳ねる心臓が苦しくケーシャに撫でられるがままじっとしているしかできない。
動悸が治まるとクッキーを食べて水やお茶を飲みつつただ人形に血が貯まるのを待った。
「おつかれエータ」
ケーシャに声をかけられ目が覚めた。寝てしまったのか。
「もう一回か?」
「いやもう終わりだ」
「そうか……よかった」
俺が寝ている間に必要な量の血が人形の中を満たしたらしい。助かった。
起きはしたがまだ眠くて体も重い。これで楽なのか?
ケーシャがごそごそと広げた布に人形を乗せようと持ち上げているのを見ながらもう一度夢の中に戻っていった。
次に目が覚めた頃にはまあまあ眠れたらしく多少スッキリとした朝を迎えていた。未だ朝かは知らないが。
ケーシャがいないので戻ったのだろう。……ということは夜なのか。体内時計いつか直るのだろうか?
人形は持って帰らなかったようでステンドグラスの脇に座らされている。俯いているのでかなり不気味だ。
と、ステンドグラスの向こうで影が横切った。一瞬ケーシャが外にいるのかと思ったが明らかに影のサイズが人のそれではなかった。
ここに来て、この部屋で眠ったのは初めてのことではないだろうか? 大抵は部屋へ戻って寝ているが、外で寝たこともあったし、空の部屋で寝たこともある。どの時も何も見ていないし恐怖を感じたこともない。
カチ。
キキ、ギキィ。
遠くで扉が開いた。
俺に掛けられていた布をいつの間にか強く握っていた。その手はじっとりと汗をかいている。ちらりと見ればしっかりお部屋さんの扉は見えている。外に行くための扉は閉まっている。静かに立ち上がると部屋の扉に向かう、がどうにも人形が気になった。
シク、シク、しく。
足音とも思えぬ音がゆっくりと近づく。人形を持ち上げるとまさに想像通りの重さで怖い。本当に温かくトクトクと肌にわずかに脈打つ動きを感じる。
部屋の扉を開けて中に入る。玄関の脇に人形を横たえてから扉を閉めようとしたときに向かいに見える扉が、キキぃと音を立て動いた。
バン!
訳が分からず力いっぱい扉を閉める。
ドアノブを両手で握って、手前に引く。この扉を開けられたら、どうしたいいんだ。
しかし幸いなことにいくら待っても握ったドアノブは勝手に動くことはなかった。
台所に向かうとタイマーをかける。10時間後。設定できる最大時間だ。これを今かけておかないと俺はもうこの部屋から出ることができない。
「どうなってんだ……」
呪いの人形じゃないだろうな。玄関にいる人形を視界に入れつつ風呂場に行く。疲れ果てたし扉開かないみたいだからこの中は絶対安心ということで熱めのお湯に使ってから眠ることにする。
ピピピピピ……という電子音に起こされて寝られるもんだなと自分の図太さに感心する。
寝たら疲れすぎておかしなものでも見たのだろうという気になる。いや、きっとそうだな!
どうやって食べたらいいか分からない野菜と卵と鶏肉の入った甘辛いタレとマヨネーズがこれでもかと詰め込まれたピタパンに牛乳を合わせる。
玄関に人形がいて位置が動いていないことを確認。よし。
次玄関の扉。異常なし。ドアノブは、回る。
「よーし!」
少し自分に気合を入れて扉を開ける。
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