第24話 抵抗したい
「大丈夫だって痛いかもしれないけど一瞬だから」
「注射ならそうだろうけどお前の持ってる針は血を取るには太すぎるだろ!!」
逃げようとする俺をケーシャがガッチリと押さえているので身動きが取れない。視界に入ってくる針の長さは手のひらからはみ出るくらいに長い。さらに太さは竹串のようだった。
あんなもの刺されてたまるか!
「これを全部は体に刺さないって。ちょっとチクっと先の方だけを刺すだけだから。試させてくれるって言っただろ?」
「そうだけど。なあ、満たす必要はないだろ?」
「少しだと起動しないからきちんと入れないと無駄になるぞ」
「ばかなの!? 人形が満たんになるまで血を抜かれたら俺どうしたって死ぬって!! そんな恐ろしい起動方法の人形どこにあったんだよ。いや、そもそもこの人形なんなんだよ?」
「死んだ子供の代わりに親が可愛がるためのものらしいけど」
今度は本当にくらりときた。
死んだものの代わりにするとか。だからなのか? だから満たさないと起動しないのか? 死んでしまっているから全ての血を失ってもかまわない。そういうことなのか。子供の体液全てかぁ。
なんだか泣けてきた……最後にゆっくり眠って美味しいものをたっぷり食べて、だらだらして楽しい時間を過ごせたな。グッバイ現世。
「いや! しかし俺はまだ生きているんですけど!」
本当にこぼれてきた涙を手の甲で乱暴に拭う。
「そりゃそうだ。そのまま一緒に外に出るためにこうして試そうとしてみているんだろう?」
「それで死にかけてたら話にならないだろ……」
「いや、死ぬ目になんて合わせないって。一気に抜くわけない」
「え」
当たり前だろ? と言いたげに俺を腕から開放したケーシャ。
一気に抜かないと聞いて俺の気も抜けた。その場に尻から床に着地する。
「聞き手どっちだ?」
「右手だけど」
「じゃ左だな」
座り込んでいる俺の正面に来たケーシャはしゃがむと俺の左手を取った。手首の内側が見えるようにひっくり返されてあの長い針が手首の血管に刺さった。
「つっ」
本当に針の先しか刺さらなかった。そこからじわりと血が滲み出してきた。
そこに模様の書かれた小さい紙を乗せる。赤い血がじゅっと染みた。四角い紙は見る見るうちに白から赤へと色を変えた。
「これで終わりか?」
「いや、こっちで別の作業をする」
長い針での工程はあまりにもあっさりと終わった。あんなに騒いだ俺の方がばかだったみたいじやないか。
ケーシャは俺の手首に乗せた物と同じ模様の入った紙をビーカーに似たガラスに落とした。次に紐を人形の口に入れてテープで固定する。その紐の反対側をビーカーに入れた。
「エータちょっと来てくれ」
騒いでしまって恥ずかしい俺は大人しくケーシャの前まで行く。今度があればまずしっかり話を聞くべきだな。
歩いても手首の紙は剥がれることなくくっついている。
ケーシャに左腕を引き寄せられ、赤く変わった紙の上にもう一枚同じ紙を乗せた、と思ったらすぐに離してその紙はビーカーに入っているもう一枚の上へと移動した。
移動した紙をケーシャがじっと見る。彼がなにか呟いたように聞こえた気もするし聞こえなかった気もした。そしたらビーカーの中の紙が赤く染まり、染まっただけでなくどんどんと、少しずつではあるが血が染み出していく。多分俺の血が。
「不思議なものだな」
「そうだろう」
「どういう仕組みなんだ?」
「知らない」
魔法にしたって道理があるのではと解説を期待した俺だったのだがケーシャからは思った答えは返って来なかった。
「仲間が全部組んでくれたから俺も不思議なんだよ。魔法は全く駄目からな」
なるほどそれなら納得できる。量を抜かれることには納得できていないが。
「言われたとおりするだけで血が溜まっていくんだな」
「俺は怖いけどな勝手に俺の体を抜け出ていく血は」
「そうそう」
ケーシャがカバンから何かを取り出す。
布に包まれたクッキーのような四角いベージュ色のお菓子だった。
「ほら」
ケーシャが1枚手に取ると俺の口の前に持ってくる。
「なに? くれるのか?」
「……そうだな」
微妙な間が気になったが目の前からは甘いいい香りがしてくる。
「眠ったりしないよな?」
「眠りはしないな」
「異様に不味いとか」
「甘くてうまいぞ。ほら食べてみろって」
「あからさまに怪しさを感じるけど」
「気のせいだから。あーなら俺も食べるから。それならいいだろ?」
ケーシャが手に持っていた、さっき俺に食べさせようとした物を自分で食べた。サクサクといい音がする。
「ほら」
残りのクッキーが差し出された。仕方ない。1枚だけ取って食べてみた。サクリ、サクサク。うん。美味しい。あの間はなんだ?
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