(三)-5
もちろんその言葉は私の心を真っ二つにしてしまうのに、十分だった。まさか、店を間違えるとは……。まさか、店を間違えるとは……。まさか、店を間違えるとは……。まさか……(以下略 ※筆者注)。
私は店の扉を開けた。開けるときはそう重くはなかった気がするのだが、木製の扉は重かった。前もあまりよく見えないと思ったら、ショックのあまり、顔が地面を向いていた。店の前のアスファルトでは、相変わらず雨粒がミルククラウンを作るのに忙しそうであった。
背後から「あの、大丈夫ですか……」と声をかけられたが、反射的に「大丈夫です」と答えてしまった。まさか「大丈夫じゃないです」とも言えないし。実際は全く大丈夫じゃないけど、だからといって仕事中のウェイトレスのお姉さんに何かをかしてもらうわけにもいかず……。
ともあれ、駅を出たときよりは雨脚は弱い。そのまま店に向かった。
(続く)
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