何カガ憑イテクル

岸亜里沙

何カガ憑イテクル

これは私が実際に経験した奇妙なお話です。


20歳の時、私は実家を離れ、とある安アパートで一人暮らしを始めました。

1Kの小さな物件でしたが、築年数もまだ新しく私には十分でした。

好きな事を自由にしたり、友人に泊まってもらったり、私は一人暮らしを謳歌していました。


そして引っ越して一ヶ月くらい経った頃の事です。

夜中に小さな子供達の声が、急に響くようになりました。

私は最初、上の階に子供のいる家族が引っ越してきたのかと思いました。

しかし深夜2時にも関わらず、子供達は騒ぎ回っています。

──なぜ親は注意しないのかしら?──

そんな事が一週間くらい続いたので、私は文句を言いに上階へ向かいました。

ですが、上階へ行って驚きました。

私の部屋の真上の部屋は、空き部屋になっていたのです。

──どういう事?私の勘違い?でも絶対子供の声がしていたわ──

そんな事を考えながら、私が立ち竦んでいると、隣の部屋から一人のお爺さんが出てきました。

「おや、こんにちは」

「あっ、こんにちは。あの、すみません。この部屋なんですが、いつから空き部屋なんですか?」

「もうかれこれ半年くらいかのぉ。この部屋には大学生の子がおったんじゃが、就職が決まって出ていってからは、ずっと空いたままじゃ」

「この階に小さい子供の居るご家庭ってありますか?私、下の階の者なのですが、深夜に子供達の騒ぎ声で眠れなくて」

私がそう言うと、お爺さんは首を傾げました。

「いや、この階には小さい子供のおる家族はおらんぞ。それに最近、夜も静かなもんじゃったよ」

私は不思議に思いましたが、お爺さんにお礼を言い、自分の部屋へと戻りました。


そして次の日の夜、私が部屋でテレビを見ていると急にインターホンが鳴りました。

──こんな時間に誰?──

私は不審に思いましたが、もしかしたら宅配便かもしれないと考え、玄関の扉を開けました。

しかし、そこには誰も居なかったのです。

──え?イタズラ?──

私は急に不安になり、急いで扉を閉め鍵をかけました。

昨日、お爺さんの話を聞いてから、得体の知れない恐怖を感じていました。

もしかしたら、このアパートには霊的な何かがいるのかもしれないと。


更に翌日の夜。

私がお風呂に入っていた時の事です。

髪をシャンプーし、トリートメントを流し終わって目を開けた瞬間、自分の目を疑いました。

そして、あまりの恐怖に血の気が引きました。

湯気で曇った鏡のあちこちに、小さな子供の手形がたくさん付いていたのです。

「いやあああ」

私は急いで体を拭き、服を着ると、部屋を飛び出しました。

そして近くに住んでいる友人のアパートに行って事情を説明し、泊めてもらう事にしました。

「この部屋とこの布団を使って。私はリビングで寝るから」

「ありがとう。ごめんね。急にこんな事で押しかけちゃったりして」

「いいのよ。でも本当に心霊現象ってあるのね」

「本当に怖かったわ。まさか自分の身にこんな事が起こるなんて」

「とりあえず、今日はゆっくり休んで。何かあったら遠慮なく言ってね」

「ありがとう。おやすみなさい」

私達はそのまま眠りに付きました。


しかし、深夜3時過ぎ。

私はふと何かの気配を感じました。

そして暫くすると、あの子供達の騒ぎ声がはっきりと聞こえてきたのです。

今までよりもはっきりと間近で。

私は布団を頭まで被って、ずっと目を閉じていましたが勇気を振り絞って、布団の隙間から覗いてみる事にしました。

そこには確かに小さな子供の足が見えました。

見ていると数人の子供達が、私の布団の周りを楽しそうにぐるぐると走り回っているようでした。

隣のリビングで寝ている友人は、全く気づいていないようです。

私は怖くなり、目を閉じて早く朝が来るよう祈るしかありませんでした。

そして早朝、子供達の声はピタリと止まり、部屋の中は静寂に包まれました。

──ああ良かった──

私は安心し、再び眠りにつきました。


その後私は、霊感があるという友人の友人に相談し、調べてもらう事にしました。

すると意外な事に、その人曰く、その子供達は忌み嫌われる霊などではなく、妖精らしいと言うのです。

純粋で好奇心旺盛なだけで、悪さはしないとの事でした。

そしてその説明を受けたすぐ後、妖精達も私の元から姿を消し、別の誰かの元へと行ったようです。


もし私と似たような経験をされている方がいらっしゃいましたら、安心して下さい。

妖精達はきっとあなたと遊びたいだけなのです。

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何カガ憑イテクル 岸亜里沙 @kishiarisa

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