第十三話 無効化

新しい神官学科の先生は

 ステラと別れた後、僕は少し時間を潰してから授業の終わり頃を見計らって魔法使い学科の教室の方に向かった。

 授業を終えた生徒たちの中にファーを見つけた。ファーも僕を見つけて少し早足で近づいてきてくれた。


「アスラ、さっきはどうしたの? 変よ?」

「ごめん。校長先生に言われたことでステラに相談があったんだ。」

「そうなのね。……でも、エンジェル先生から、アスラに後で職員室に来るように伝えろって言われたわ。」

「エンジェル先生?」

「新しい神官学科の先生よ。神聖魔法の授業の。怒ってたわ。」


 それを聞いて僕は、しまったと思った。まさか怒られることになるとは。冷や汗が出る。遅刻してでも授業に出るべきだったか……。しかし、神聖魔法は教会に古くから伝わっている魔法陣を扱う授業ではあるが、魔法使い学科の生徒は魔法陣を読めるのでそれが教会の集会を演出する音だったり火だったりの魔法の組み合わせでしかないことが分かっているため、つまらないと感じる生徒が多く不人気だ。それで僕も積極的に出たいとは思わなかったのだ。


「……行かないわけにはいかないかな?」

「神聖魔法の単位が取れなかったら進級できないわ……。」


 ファーが僕を批難するような目で見るので僕は思わず目を背けてしまった。ああ、失敗したなあ。


「わかった。とりあえず行ってみるよ。エンジェル先生だね。」


 僕は憂鬱な気持ちで職員室に向かった。



 職員室を訪ねるとエンジェル先生は不在だった。ポポス先生の研究室を引き継いだそうで、そっちにいるのではないかということだったので僕は研究室に行ってみることにした。……僕の授業サボりは既にルカ先生にも伝わっており、しっかりルカ先生にも怒られた。僕はこれから更に怒られに行くのに……。


 ポポス先生の研究室だった部屋に着くと荷物の運び込みが行われていた。ポポス先生の物は残らず魔法警察が押収したと聞いていたが、既に部屋の中を覗くと本や箱や変なオブジェで埋め尽くされていた。このオブジェは南の国で広まっている神の像だった気がする。

 部屋の奥に白髪の老人がいて荷物を運び込んでいる人たちに指示を出している。この人がエンジェル先生?


「あの、エンジェル先生? 魔法使い学科のアスラです。この度は申し訳ありませんでした。」


 白髪の老人が僕を睨む。


「お前か! ワシの授業をよくもサボったな! 中央の議員の息子だからお咎め無しと思ったか!?」


 エンジェル先生は大声で怒鳴った。今回は僕が全面的に悪いので、恐縮した態度で僕はもう一度謝った。


「申し訳ありません、エンジェル先生。補習でも何でもやります。」

「補習? 何を勘違いしておるのだ、そんなもんしてやるものか! 次からもう出なくてよいぞ!」

「そんな困ります。僕は授業に出ないわけにはいきません。どうか許してください。」

「ふん、ワシはドラゴンが大嫌いなんだ! お前の父親、ドラゴンの憑依者! 気に食わん! だからお前も気に食わん!」

「えー……。」


 授業をサボってしまった僕が批判されるのはしょうがないとしても、全然関係無いお父さんのことを言われるのはちょっと違う気がするのだけれど。僕は少しむっとした。僕はこの先生は好きになれないと思った。


「……とりあえず謝ったので。授業のことは校長先生にも話して許してもらいに行きます。」

「校長に!? か、勝手にしろ!」


 そもそもこの先生に僕を授業から追い出す権限なんてあるものか。僕としては、こんなことで校長先生を頼るのは嫌だったけれどしょうがない。



 研究室を後にした僕はファーのところに戻る前に、水を一口飲んで気持ちを落ち着けようと思った。学校には飲み水が供給される場所が各階にある。それはボタンを押すと水が出る魔法道具で、魔法が使えない生徒でも使えるように常に外部から魔法力が供給されている。僕はそれを見つけてボタンを押した。

 しかし、水が出ない。故障してるのか? 何度ボタンを押しても同じだった。本当に今日はついてないな……。

 諦めた僕がその場を離れた少し後に、別の生徒がやってきて水を飲むためにその魔法道具のボタンを押した。当然のようにその魔法道具から水が出て、生徒は水を飲むとまた去って行った。


「ん?」


 僕はその光景を見て不思議に思い引き返し、再び魔法道具のボタンを押してみた。水が出る。なんでさっきは水が出なかったんだろう? たまたま調子が悪かったのだろうか?


 ああ、そんなことよりも、ファーに嫌われたらどうしよう? ファーにあんな顔をされるとは思わなかった。せっかくステラと仲直りしたのに、今度はファーと会うのが気まずくなるなんて……。ほんと馬鹿なことしちゃったな……。

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