魔法大会、その傾向と対策

 魔法大会のルールは次の通りである。


 一、チームの人数は五人まで。

 二、魔法の杖に入れられる魔法は五つまで。ただし、対戦相手に当ててもよい魔法は大会が用意した魔法陣の攻撃魔法一つのみ。つまり残りの四つの魔法に何を選ぶかということが戦略となる。

 三、大会が用意した魔法陣の攻撃魔法を対戦相手に当てた場合はポイントが入る。魔法を当てられた側は陣地の外野に出る。全員が外野に出た場合は負け。外野からの魔法攻撃は許されて外野でポイントを取ると陣地に戻ることができる。

 四、中央に置かれたボールを取り合い、相手の陣地のゴールに入れたらポイントが入る。

 五、十分後、ポイントが多い方のチームが勝ち。


 他にも試合場の陣地の大きさや、魔法を使ってもよいポジション、ボールに関するルールなどがあるが割愛する。


「やっぱり二人だと不利な気がするルールだよね。」

「そうね。でも最初の大会の優勝者は一人だったみたい。この時はまだボールをゴールに入れるルールは無かったのね。」

「勝った人は防御魔法を使って無失点で優勝してるんだね。当てられたら相手にポイントが入るから、鉄壁の防御で相手に点を与えなかったということか。」

「でもそれで次の大会からはボールをゴールに入れることでもポイントが入るようになった。」

「次の大会の優勝チームは一人がボールを先手で奪って相手に渡さない作戦に出たのか。」

「だから次のルールではボールには素手でも魔法でも三秒以上触れていてはいけないことになった。」

「第三回大会では霧の魔法で審判の目をくらまそうとしたチームがあったみたいだ。これはさすがにダメでしょ。」

「それで第四回大会からは審判魔法でポイント奪取の判定やルール違反の判定が出来るように大幅に変わったみたいね。」


 なんだろう? 過去の魔法大会の結果を見ていると頭が痛くなってくる。魔法は何でもありなのだと思い知らされる。それになぜかみんなルールの抜け道を探そうとするようだ。その度にルールが変わったり追加されたりしている。


「ちなみに第九回大会の今年の追加ルールは、『会場の地形を変えるのは十秒以内』よ。」


 ファーは過去の大会のチームが使った魔法を箇条書きで書き出している。


「どうしよう? 試合用の杖に登録しておける魔法陣は四つということだよね。」

「まず、防御魔法は絶対ね。でも防御魔法を使ってる間は攻撃できないしボールでポイントを取ることもできない。」

「ということは、一人が防御。もう一人が攻撃か。」

「それについては面白そうな魔法を使ったチームがあるわ。これよ、攻撃を防いでくれる魔法の鳥を作ったの。」

「自動型の防御魔法?」

「そうね。でもこの魔法を作るためにチーム四人の魔法陣の枠を全て使ってる。」

「じゃあ、僕らには難しくない?」

「魔法陣は工夫よ。アスラならもっと効率的な魔法陣が勝手に生成されるんじゃないかしら。それはこれからやってみましょ。」


 なるほどね、魔法陣は工夫か。その工夫をすっ飛ばして最適解を出せるのなら僕のスキルは相当強いことになる。ファーは他にもいくつかの魔法の案を作った。


「僕もいくつか考えてきたんだ。」


 僕は前々から考えてきた大会用の魔法の案をファーに話した。攻撃魔法が分裂する魔法、スピードが上がる魔法、高く跳べるようになる魔法、分身を作る魔法、攻撃魔法を相手を追尾するように変える魔法、ボールを高速で打ち出す魔法、ボールをカーブさせる魔法……。


「……アスラは真面目よね。魔法にも性格が出てるわ。でもこれじゃ勝てない。スポーツじゃないのよ。やるからには絶対に勝てるように準備しなきゃ。」

「……うん。」

「あ、でもでも、この攻撃魔法を増やすっていうのはいい線いってるかもしれない。これもやってみましょうか。」


 ファーのダメだしに僕は軽く落ち込んだが、ファーはすぐに気付いてフォローを入れてくれた。


 その日はまず防御魔法の魔法陣の生成から始めた。僕は念じて魔法陣を作る。でもうまく出来ていない。僕がスキルで作る魔法陣はイメージから作られる。つまり僕はまだ防御魔法のイメージが出来ていないのだ。


「ごめん、ファー。」

「いいのよ。焦らないで。時間はまだたくさんあるわ。……イメージね。アスラが何か掴めるといいんだけど……。」


 僕は空を見上げた。魔法の鳥か。しかも魔法を防御してくれる……。難しいなあ。そもそも魔法が防御できればいいんだから鳥である必要は無いのでは? 魔法の防御というと……イメージしやすいのは前世の記憶の中で賢斗が見ていたアニメのシーンだった。四角い透明の板が空中に現れて攻撃を防ぐ。そうだ、それでいいじゃないか。

 僕は再びイメージを作り始めた。前世の記憶で見たアニメも映画も魔法みたいな映像が多くて僕が魔法をイメージする手助けになりそうだと思った。あの世界には魔法は無かったけれど、魔法が本当にあるかのように賢斗にとってそれらは身近なものであった。


「できた。」


 僕は出来上がった魔法陣に魔法を込めた。魔法は腕輪の形になり僕の右手に填まった。試しにファーに魔法で水球を当ててもらう。すると魔法の板が自動的に空中に現れて水球を受け止めて僕を守った。ファーがいくつ水球を撃っても魔法の板はすべて防ぎ僕は全く濡れることはなかった。


「へえ、すごい。よくこんな魔法をイメージできたわね。」

「うん。ふと思いついたんだ。でもこの魔法陣だと一人一つ枠を使っちゃうね。」

「ううん、これでいいと思う。魔法を使ったのは腕輪を作った時だけでその後は腕輪が自動的に守ってくれるのね。一つ目はこれにしましょう。」


 ファーは僕が作った魔法陣をノートに書き写した。


 よし、なんかいけるような気がしてきたぞ。僕は魔法陣を完成させるコツを掴んだ気がして自信がついていた。

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