それ以来僕は何度もいつかの夢を見る

 入学式のあの日、校長先生は

「卒業までに考えておいてほしい。」

とだけ言ってその話題をお終いにした。

 その後、僕らはそれぞれの寮まで案内されて一息ついた。あれから一週間経っている。



 今日も僕は前世の夢を見る。


「おい、渡辺! あのアニメめっちゃ面白いよな!」

「いや俺は原作読めってずっと言ってたろ? 面白いんだから!」

「マンガはかったるくて読めねーよ。あ! 先の展開言うなよ!?」

「言わねーよ!」


 今日の夢は賢斗が学校の友達とたわいのない話をしている場面だ。渡辺は賢斗の名字。たしか話をしている彼は遠藤だった。一時期、クラスではこのマンガの話題で持ちきりだったのを憶えている。少年マンガ雑誌に連載されていたお気に入りのマンガが深夜枠だけどアニメになって、一気に人気が広がった。そういや、このマンガは最後どうなったんだっけ?


「次、移動教室だぞ。そろそろ行くぞ。」


 同じクラスの神谷が、賢斗と遠藤に声をかける。


「だりーなあ。今日暑すぎね? クーラー付けてくれねーかな?」

「まだ五月だから無理じゃね?」

「暑い方が女子が薄着になるからいいじゃん。」

「え……。遠藤お前マジ引くわ……。」

「いやいやいや! え? お前ら気になんねーの?」

「んー、どうだろうねえ。」

「ほら、渡辺は彼女いるから、そういうのは間に合ってんだよなー?」

「え? いや彼女って、何言ってんの。」

「マジで? 渡辺に彼女? え? この学校?」

「そうだよな、渡辺ー? ほら隣のクラスのさー……。」

「やめろよ、神谷! そんなんじゃねーって!」


 賢斗は二人から逃げるように廊下を走る。賢斗はずっとあの幼なじみの彼女のことを思い浮かべている。この時本当に賢斗はもう彼女と付き合っていた。でもまだ誰にも言ってなかった。お互い告白をして付き合うことになった場面……僕はまだ夢では見ていないが、賢斗の記憶がそれを僕に教えた。

 何恥ずかしがってるんだよ。僕は賢斗の様子が懐かしく思えて笑った。賢斗も彼女の顔を思い出して顔に笑みが浮かんでいる。……僕にはその彼女の顔がぼやけていて見えない。僕の意識は、夢で彼女の顔を見れないことを突きつけられるたび、賢斗の気持ちに寄り添えずにアスラに戻される。

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