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運動会が終わって初体験も終えての、月曜日。
………結果が、出た。
何のって、進路。俺の。指定校推薦の校内選抜の。
自分で言うけど、俺はそこそこ成績が良かった。
それは1年の頃からで、ずっとそのそこそこをキープしてきたから、指定校推薦で行けるんじゃね?って正直思ってたし狙ってた。
努力の甲斐あって成績は多分合格ラインにいた。けど俺は成績だけで、他の実績がまるでない。気にはなってたんだけどやってない。
部活も生徒会も何なら級長さえも。
やらなかった理由は家庭の事情。級長に至ってはやりたくないってのが正直なとこ。
その他授業態度とか委員会とかは超真面目にやってたけど、それだけじゃやっぱりやってるやつらよりアピールが弱かったらしくて、結果俺は、校内選抜で落とされた。
落とされて、落とされたけど。
実はちょっと………安心した。
母ちゃんとか柚紀を見て、すごい漠然とだけど好きなことを仕事にしたいとか、全力で打ち込める仕事がしたいとか、そういう思いがむくむく育ってた。育ってきてた。
今までは大学行って企業より父ちゃんと同じ公務員かなとか、そんな風にしか思ってなかったけど、本当、最近になって。柚紀と付き合いだしてから、特に。
でもじゃあそれが具体的に何かって、それがまるで、俺にはなかった。
とりあえず行っとけ、で、大学は行ったらダメなんじゃね?
近くで柚紀を見れば見るほど、日に日にそう思う気持ちがデカくなってきてた。とりあえずで行くには、かかる金額がデカすぎる。
指定校推薦で選んだ大学は、本当に『とりあえず』だったから。
だからちょっと、選抜で落ちて、変な話。………安心した。
いくら母ちゃんが、行っても大丈夫なぐらいは稼いでるって言ってくれてても、いくら母ちゃんの入院騒動からまたちょくちょく連絡を取るようになった父ちゃんが援助するぞって言ってくれてても。
心境の変化は柚紀の存在。あと母ちゃんの入院騒動。
ビフォーアフターだよ。
指定校推薦の校内選抜は、全部ビフォーでの話。
今はアフターだから。
学校から帰って、洗濯物を取り込む前。
休憩中なのか、ひと段落したのか、リビングでぼけーってお茶を飲んでた母ちゃんに校内選抜の結果を言った。ダメだったわって。
「浪人して流浪の旅に出る?」
「は?」
「それは別に構わないけど、旅資金は母ちゃん出さないから自分で何とかしてね」
「いや、行かねぇし」
「あら、行かないの?」
「行かねぇだろ。まだ一般推薦も一般入試もあるし」
「あらやだ。そうだったかしら」
かっかっかって、母ちゃんは不思議な笑い方をして、今日はオムライスにしよーっとって、言ってる。呑気だ。
………呑気だけど。
オムライス、は。ガキくさいけど、実は俺の好きなメニュー。
つまり、母ちゃんなりの、俺への励まし。多分。
「人生色々。別に1年2年遠回りしたっていいでしょ。その1年2年で何かに覚醒するかもだし」
「………覚醒って」
「近道ばっか探すより、意外といいもの落ちてるかもよ?遠回りの道に」
「………」
「納得いくまで考えて答えを出せばいい。大丈夫。あんたはそれができる子だから。もしそれに1年2年かかるなら、まあそれもありでしょ。私にできることはできる限りやるし」
「………」
「あ、でも、スネかじるばっかなら追い出すけどね」
「………だからまだ一般推薦も一般入試もあるんだけど」
「あらやだ。そうだったわ」
かっかっか。
母ちゃんはまた変な笑い方をして、もうちょっと書いてくるわーって首をコキコキしながら部屋に行った。
肩に見える湿布。リビングに残る湿布臭。
「………だから使ったコップはせめて流しに持ってけっていっつも言ってんだろ」
パタンって閉まったドアに、思わず呟いた。
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