252話 宿敵との再会

『……てい……か!? ……聞こえ……か!? ──聞こえているか!?』


「ルーデル!」


『俺が戻るまでに次の機体を用意しろ! 敵の重装甲部隊はまだまだいるぞ! クラスター弾の方も先に出しておけ!』


 復活した無線にルーデルの声が響いた。


 何も特攻兵器だからと言って敵と一緒に死んでやる必要はない。

 特攻兵器のメリットだけ享受し、かつパイロットの生命も守る。そんなことがパイロット本人が飛べるなら爆発の寸前で脱出して直ぐに飛び去るという芸当で達成できる。


『脱出をもっと早めないと死ぬ! それと遅延信管をもう五秒遅らせて設定し直せ!』


 ルーデルが死を口にするなど驚いたが、それもそのはずだ。


 爆煙が晴れた映像には直径数キロに渡る巨大な穴が空いていた。3t分の爆薬となればこちらの魔石配合薬なら火薬のみと比べて五倍、つまり15t爆弾と同じ威力である。

 これは実践で用いられた世界最大の爆弾、イギリス空軍のグランドスラム(22.000ポンド=約9.9t)とは比較にならないほど大きい。


「これは……進行ルートを見直さないとな……」


『ご安心を。既に変更済みです』


 小さな町ひとつなら簡単に吹き飛ばすことができるこの兵器ではあるが、それでも核兵器の足元には及ばないと言うのだから恐ろしい。

 長崎型の原爆はTNT換算で約20キロトン、つまり2万トンの爆弾と同威力らしい。


『次は奥の後続をやる!』


 ルーデルの文字通り命懸けの攻撃によりトロール盾兵にはどうにか対処できた。

 しかし敵はそれだけではない。


「更に新たな魔人も現れました! 西方の山岳地帯では魔獣の侵攻も!」


「これが最後の反攻作戦なら良いがな……」


『獣は然るべき狩人に任せましょう。高速輸送機は魔人を振り切って西方の山岳地帯へ突入、第一降下猟兵大隊を早急に輸送してください』


 降下猟兵。それはドイツ軍における空挺兵の名称である。


 人間の立ち入れない険しい山岳地帯に巣食う魔獣を狩るには獣人たちが何かと丁度いい。

 空挺降下し魔獣の根城を直接叩く。空挺兵は重量的に軽装備となってしまうが、獣人たちは生まれつき持っているその爪と牙が武器であり、魔人との戦い方も山や森での戦い方も知っている。


「レオ様、もうまもなく魔王領です……!」


「遂に、だな……」


「レオ……」


「座っていろエル。ここからは正真正銘、最後の戦いだ」










 それから更に一時間後、この戦艦レーヴァテインは魔王領の領空へ侵入した。


 魔人の数々に魔力を吸い尽くされたからか空の霧は晴れていた。

 艦橋から目視で地上の人間たちが忙しなく動いている様子が見える。鉄道やトラックで次々に前線へ物資や弾薬が送られ、兵士も届けられるのだ。


『はァ……はァ……。ギリギリ魔人討伐は間に合ったぜ』

『こっちもだ。弾薬は全て撃ち尽したがな』


「よくやった歳三、ハオラン」


 この戦艦は魔王織田信長を倒すための最終兵器だ。多数の魔人に襲撃され破壊されないよう対魔との協働が必須であった。


「レオ様、間もなく当艦は第三区画を通過、第四区画へ侵入します!」


 上空からなら既に魔王城が見える距離であった。

 あの魔王城をまたこの目に収める日が来るとは、あの日決死の覚悟で戦った私には思ってもみなかった景色である。


「うむ。ナポレオン!」


『聞こえている! ──戦艦航路上にいる後方の榴弾砲部隊は戦艦に誤射しないよう射撃中止! 横の部隊に合流せよ!』


 一門あたりの火力は列車砲に劣るとはいえ、総合的な投射量は戦艦が圧倒的に上回る。副砲ですら榴弾砲の役目は果たせるだろう。


『こちら第一機甲師団! 前回到達地点まで侵攻しました! 魔王城も目視できます!』


「良くやった。私たちも間もなく到着する。もう少しだけ堪えろ」


 前回を知っているということは、あの最後の騎兵突撃に参加していた兵士が、今は第一機甲師団で重要連絡を任せられているということか。感慨深いものだ。


 私たちの最終目標は魔王の殺害と魔王城の破壊である。それは恐らくこの無限に湧き出る不死の軍団は魔王のスキル、或いは魔王城の召喚装置的なものが原因であると推測されるからだ。

 生態系の一角を構成する魔獣はともかく、この世の理を超えた存在にはお帰り頂かなければならない。


「さあ魔王、私たちはまた来たぞ!」


 そう私が叫んだ瞬間、まるで示し合わせていたかのようなタイミングで空が赤紫に染まり、真っ赤な二つの月が髑髏の模様をその表面に描きながら魔王城の後ろへ浮かび上がった。


「──来たな」


 魔王城の前に他の魔人とは比べ物にならない程の大きさの髑髏武者が現れる。


「早かったな、人間の王」


「会いたくて待ちきれなかったのさ、第六天魔王!」


 織田信長の姿は目には見えなかったが声はこちらまでズシンと響いて来る。


「レオ様、モニターに魔王を映します」


「……ほう、いい面だ。もう拝めないと考えると少し残念だがな」


「戯けが……」

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