3話 能力覚醒(?)
聖堂に戻ると準備を済ませた神父が巨大な十字架と献花台に向かって祈りを捧げていた。
「神父さま、準備が出来ました」
「それではレオ様、こちらにどうぞ」
促されるまま、神父より少し手前まで歩いた。
「目を閉じ、ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いてください」
指示に従い、はやる気持ちを抑えた。少し緊張してきた。
「始めます・・・。〈主よ、迷える信徒に道を指し示し給え〉『鑑定』!」
祈りの言葉と共に、神官のみが使えるスキル『鑑定』を発動させた。
スキルの中には生まれながらに神に授かるもの以外にも、その努力によって後天的に得ることができるものがある。
それが神父が使っているような一般的なスキルだ。貴族がもつスキルのように強力ではないが、大抵の人々が使える汎用的なものだ。
もっとも、その獲得条件は複雑で、剣士には剣士の、魔導師には魔導師のスキルしか獲得することが出来ない。
「おぉ、これは・・・」
どうやら私の能力の鑑定が終わったようだ。さぁ、一体どんな特殊能力なんだ!?
「私も聞いたことがない・・・なんなのだこれは・・・」
え?もしかして聞いたことも無いとんでもない外れスキル・・・?
「レオ様、落ち着いてお聞きください。私も長年神父をやっておりますが、このようなことは初めてで・・・」
神父の声に動揺がみれる。
「主に何度も確認したのですが、確かにこの者のスキルは『英雄召喚』であると・・・」
「え、『英雄召喚』・・・」
なにそれカッコイイ。
しかし今まで家の図書室にあった本を読み漁った中で、そんなスキルは見たことがなかった。
貴族特有の特殊能力と言ってもその数は限られているはずだ。
「申し訳ありませんレオ様。本来であればその方が持つ能力について神父である私が説明するはずなのですが・・・」
スキル鑑定のプロである神父にも、聞いたことがないスキルを説明するのは無理だ。
「ど、どうだったのだレオ!」
待ちきれなかったのか父が飛び出してきた。母が言っていたように、前から楽しみにしていたのは本当らしい。
だけどね父上、実は・・・
「父上、『英雄召喚』というスキルに聞き覚えはありますか?」
「い、いや・・・?ルイースは?」
「いえ、私も聞いたことがありませんね・・・」
貴族だけに伝わる秘匿のスキル!というわけでも無さそうだ。
「うーむ、ごく稀に新しいスキルが見つかることもありますが・・・」
神父も二人にどう説明しようか苦闘している。
「良かったじゃないレオ。あなただけの特別なスキルだそうよ!」
私の不安を察したのか、母がそっと抱きしめてくれた。優しい香りが心をなだめる。
「どの道明日の祝賀会にはスキルを披露しなければならない。どんな能力かはその時に分かるさ」
父もそういい抱きしめる。
「それに、英雄とつくだけに、きっと素晴らしい能力に違いないわ!なんてたって私たちの子ですもの!」
「ありがとうございます父上、母上・・・」
明日の誕生日を前に、今日能力の鑑定に来たのにはそういう理由があった。
この国では六歳になる時にそのスキルを領民の前で披露する。そうすることで自らの武勇、優秀さを見せつけ、領民への求心力とするのだ。
「今日はありがとうございました神父様」
母がお礼を告げ、私たちは教会を後にした。あの場で分からない能力について議論しても仕方がない。
───────────────
屋敷に戻るとマリエッタたちが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。御夕食の準備はできております」
街の外まで往復して、すっかり日も傾いていた。
今日の夕飯は、心なしか少し豪華なものを用意していたようだ。
いくら貴族の身であっても毎日豪華絢爛とはいかない。常に軍拡に勤しむ帝国にとって、節制は全ての臣民に課せられた義務だ。
それでもまだ日本にいた頃よりもいい食事ができている。それは数年前に発行した「反魔王共闘同盟」による停戦と、母の敏腕によるウィルフリードの発展から、多少の余裕があるからだ。
そして、家族と温かな食卓を囲むというのは何よりもいいものだ。
きっと明日の祝賀会ではもっといいご馳走が振る舞われるに違いない。
う、明日か・・・
楽しい食事に余計なことが思い浮かぶ。実の所、明日の誕生日はかなり不安だ。このスキルが使えなければ領民へ示しがつかない。
それに使えたとしても大したことのない能力なら、この大都市を治める跡取りに相応しくないと思われるかもしれない。
貴族というのはメンツが命の世界だ。社交界で恥をかけば自然と冷水を浴びることになる。
「さぁ、早く食べましょう。そして今日はゆっくり休みなさい。馬車での移動は体にこたえたでしょう?」
「はい母上・・・」
黙々とナイフとフォークで目の前の皿から口へ押し込む。
父も同じことを考えているのか、元々少ない口数も全くなくなり、沈黙の食事会となった。
食事を済ませ、軽く風呂に入り、自分の部屋に戻った。
今日は二つあるこの世界の月が二つとも満月になる日で、夜なのに眩しいくらいだった。
世間では吉日とされているが、今の自分には凶兆にすら思えた。
毛布に潜り込み、そっと瞼を閉じた。
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