第二章

第一話 迫りくる黒影

             一. 迫りくる黒影 


 薄暗い夜の路地裏にターゲットはいた。紺色の長い髪に紅い目、軍服の様な服を着ており一見幼く見える女の子。あの子を殺せばもうこれで全員になる。彼が不利になる、機密にしていた情報を持っている彼女を殺せば牧師様にも認めてもらえるはず。男は屋根上から彼女に向けてライフルを構え撃った。弾丸は彼女の腹部へと直撃し彼女はその場に倒れた。男は撃った女が死んだ事を確かめようと近寄り身体に触れようとすると女が目を開け男の首に飛びつき足で両腕を固定しては男の首を折った。男は動かなくなった。女はふらつきながら歩きアジトではなく仮拠点としている自身の家に帰った。

 後ろにいる人影を知らずに…。


 家に帰っては止血と消毒をし、傷口に包帯を巻いた。弾丸を掠ったとはいえ、結構深い傷となってしまった。これはいつ頃直るのだろうか、早く直さないと任務に支障が出てしまう。それは何としても避けたい。しかし、何故今頃になって襲ってくるのか少し疑問に思った。私があの場所から逃げてから数か月は経っている。私がロンスに入る前でも後でも殺す機会はあったはず。しかし私を殺してもあの情報は手に入らない。何故ならあの情報は全てあいつ等の知らない場所に隠してあるからだ。例え私を殺しても私の拠点を探しても見つかるはずはないのだ。それだけの自信があるほど、今回の隠し場所は分からない。私が死ねばあの子はいずれ野生に戻るし、その情報の存在もあの子の頭から消えるだろう。

「…誰かいるのか?」

家の中に先程から人の気配がする。永月は後ろから感じる気配にそう告げた。次の瞬間、窓ガラスが割れ永月の身体が家の外まで飛んだ。彼女自身も驚きを隠せない状態だったが地面に何とか着地をしその場から離れようとした瞬間上から地面に抑えられた。周りの通りかかる人が何事かと足を止め此方をじっと見ている。見ているだけで彼女を助けたり声を掛けたりしようとする者は誰一人もいない。地面に押さえつけられた身体から悲鳴を上げる。乗せられた体重、体つきからして男だろう。そして男は口を開く。

「データは何処にある、吐け‼!」

やはりこの男もデータ目当てか…。永月は小さくため息を溢し、男に言う。

「…データなんか持っていない、何なら家ごと調べればいい。何も出てこないぞ」

「それは言い訳か?」

「言い訳なものですか。本当の事を言っているだけですよ、ってか、そろそろ離してもらえませんか?痛い…」

「誰がてめぇを離すか、主様の命令でお前を生け捕りにしろとの事なんだ。あの方の大切なデータを盗みやがって」

「…貴方、あのデータの中身…その主様とやらの中身を見たことあるか?」

「は…?何を言っているんだ?」

「そのままの意味さ、貴方このままアイツの所にいれば身体も心も…なんなら貴方の命ごと持ってかれますよ?」

苦笑しながら男を煽る。だが余程の信者なのか一向に意見を変えたりはしなかった。永月はとうとうしらを切ったのか、勢いよく頭を上に上げると男の顔面に当たり鈍い音がする。男はあまりの痛さに負け永月から手を離しよろめきながら立ち上がった。男の鼻からは赤い液体が流れ出ている。

「てめぇ…‼!」

鼻血を腕で拭いでは永月の顔面に向かって拳を振ろうとするが永月に簡単に交わされ終いには頭と顔面に回し蹴りを食らった。男は鼻血と泡を吹き出しながらその場にダウンした。

「…おいおい、これで終わりなのですか?アイツの所も落ちたな…」

永月は服に付いた砂ぼこりなどを払い周りの人間らに軽く礼をすれば倒れている男を裏路地に持っていき自分の部屋に戻った。


 部屋に戻っては荒らされた部屋を前に残っている最低限の荷物をまとめ大家に鍵を返し家を出た。この家も組織に特定されているならもう此処にいても周りへの被害が増えるだけで迷惑にしかならない。そう考えた結果、まだ私を組織無所属と思っているアイツらから見えない私の所属している組織の所に行こう。ボスに話をして何とかアジトに泊めてもらえないか交渉してみようと早足でアジトに向かった。


 「…アジトに泊まりたい?…そりゃ別にいいけど、一様理由を聞いてみていいか?」

アジトに着いた永月は柊に交渉した結果すぐに承諾を得たけどやはり理由を聞かれた。元々この組織に入った時はあの家もなかった為その時は柊名義で先程までいた部屋を借りていた。その理由はやはり女の子だからっていう事だった。年頃の女の子に気を使ったのか同じアジト内に男女がいては少し気にかかってしまうだろうと思い決めたんだと。

 「…それは、此方の勝手な理由なので…ですが、もうあの部屋には入れなくなったというか…」

「成程な…。まぁ言いたくないのなら良いさ、ある程度は置いてやるけど部屋が決まるまでな」

「ありがとうございます」

永月は柊に礼を言うと自室に荷物を置き、向かえと言われた会議室に足を運んだ。

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