俺の彼女が1週間でメンヘラになった理由(わけ)
小畑 こぱん
俺の彼女が1週間でメンヘラになった理由(わけ)
第1話 彼女との交際に至るまで
それは、俺が高校二年生の頃の話。
俺にとって人生最大の転機は、夏休みが明けて二学期が始まった、登校最初の放課後に起きた。
「――私と、お付き合いして下さい!」
「は?」
その言葉を聞かされた俺の口から出てきたのは、そんな一文字だった。
ヤバい俺。告白されての第一声が、「は?」ってなんだ。いやいや待ってちょっと待ってくれ。冷静に、ここは一度冷静になった方がいい。
俺は目の前で頭を下げたままの女の子の頭頂部を見つめながら、現状を把握するため冷静になろうとした。
夏休みが終了しても、
変な第一声を発してからずっと黙したままの男の態度を疑問に思ったのか、
「あの。お付き合い、して下さいませんか?」
「すみません、ちょっと冷静にならせて下さい」
ヤバい。幻覚じゃないかもしれない。
そうだよな。自他共に認める平平凡凡、どこにでもいる普通の男子高校生である俺が、こんな大それた願望を抱いたことなんて一度もなかったしな。ちゃんとした現実だ。ちゃんと冷静になった頭が、現状把握として俺に状況を復習させてくる。
~~~
アパートで母親と二人暮らしの俺、朝母親に叩き起こされる。今日もあちーと言いながら、太陽に照りつけられている途中でバスに乗って登校する。
校門を潜ってクラスの連中が「久しぶりー」とか言いながら俺もそれに応える中、下駄箱を開けてみたら一通の手紙が入っていることに気づく。十中八九びっくりドッキリ悪ふざけ野郎のイタズラだと思って、どいつの仕業だと確認しようとしたら、目の前にいる女子の名前が裏面に書かれていた。
その時点で悪ふざけ野郎のイタズラだと確信した俺は、中身を取り出して
ははーん。告白だと期待に胸がドキドキ・ワクワクした俺を「ドッキリー!」とか言いながら飛び出してきて地獄に叩き落とす
そう考えた俺は教室に入って容疑者をピックアップしながら、オカルトマニアの友人のオカルト話を聞き流してその時を待った。そうして指定の場所で待機していた俺は、俺が来た方向からとある女子の姿を遠目に確認して、首を傾げた。やけに手の込んだイタズラだと。
しかし首を傾げた理由は別にあり、手紙の裏面に名前が記してあった張本人――
そうして呑気に首を傾げる俺の目の前に来た、間近で見てもさすが学年一の美少女と称賛したくなるその超可愛らしい顔をこの暑さのせいか火照らせて、バッと頭を下げながら言われたその言葉が。
「私と、お付き合いして下さい!」
~~~
はい、状況復習終了。時系列、今ここ。
冷静になった俺は未だ極悪なイタズラ疑惑が拭いきれないまま、ジッと待っている京帝 真妃乃へと口を開いた。
「これ、罰ゲームか何か?」
ヤバい。冷静じゃないかもしれない。万が……いや少な過ぎる、億が一イタズラじゃなかったらメッチャ失礼な発言したわ俺。
案の定彼女はえっ、というような顔をして、必死に首を横に振ってきた。
「ちがっ、違います! 私、罰ゲームで誰かに告白するような子なんかじゃありません!」
「ですよね。俺が悪かったです。すみません」
両手で拳を握ってプリプリする姿は、あざとい程に可愛い。……ん? ということはこれ、本当の本当に告白か? 学年一の美少女が、平平凡凡のどこにでもいる俺に?
自分でもどんだけ疑心暗鬼になっているんだと思いながらも、後世まで笑い話として受け継がれては困るので、ちゃんとハッキリとさせたかった。
「えっと、何で俺? 自分で言うのもなんだけど、京帝さんとは違うクラスだし、一度も話したことないよね? 見た目も普通だし、京帝さんに告白されるような魅力とか何もないと思うんだけど」
そう言うと京帝 真妃乃は目を丸くし、次いで怒った顔をする。
「私が選んだ人を魅力がないとか、そんな風に言わないで! 確かに同じクラスになったことはないけど、でも話したことはあるよ!」
「え。あった?」
全然覚えがない。彼女と会話するという一大イベントが発生していたら、絶対に忘れる筈がないのだが。
俺がまったく記憶にないことを察した瞬間、その大きな瞳を悲しそうに潤ませた。
「覚えてない? 夏休み最後の日。私がハンカチ落としたの、拾ってくれたでしょ?」
言われ、その時のこと(昨日)を思い出す。
確かに最終日だからと何故かその理由だけで外に出たくなった俺は、クソ暑い中をブラブラと道なりに歩いていた。多分この時は確実に頭沸いていた。
進行方向からやってくる人間を何も考えずに避けるというゲームをして楽しんでいた最中、麦わら帽子を被って
……え。待ってあれのこと? あの時の子がこの京帝 真妃乃? 頭沸いていたから麦わら帽子のことしか覚えてない。というかこの子が話したって言っているの、会話のキャッチボールも何もないあの一言やり取りのこと!?
俺の表情の変化に思い出したことを察した彼女が、嬉しそうな顔と声で言ってくる。
「私、あの時にこの人だって、運命感じちゃったの! 落としたものをすぐに拾って渡してくれるのなんて、このご時世中々いないでしょ? 優しい人って思って、すぐに捕まえなきゃ!って」
捕まえなきゃって、俺は虫か何かか。てかハンカチ拾ったくらいで運命感じたとか、学年一の美少女チョロ過ぎやしないか? 何か心配になってくるんだけど。
けれどそんな何気ないところを見染めて、好きになってくれるのは中々に純粋な子だと思う。俺としても頭沸いていた時の所業とは言え、俺のそんなところ(どんなところだ)を見染めてくれて悪い気はしない。
それに話を聞いて極悪なイタズラでも罰ゲームでもなく、正真正銘の心が篭った告白であることが判明したのだ。これは俺にとって今後、一生あるかないかのチャンスなのではないだろうか?
俺はどこにでもいる見た目普通・平平凡凡どこにでもいる男。対して彼女、学年一と呼び名高い美少女。
告白に対する俺の返答は決まった。
「えと、あんな何気ないことで好きになってくれてありがとう。俺、まだ京帝さんのことよく知らないし、京帝さんも俺のことハンカチ拾ってくれた親切野郎って情報しかないと思う。だから、付き合ってみて、もっとお互いのことが知れたら、嬉しいって思ってる。だからあの、よろしくお願いします!」
さすがに告白されるのもそれに対しての返事など、恋愛事に関してはこれが初めてと言っても過言ではない。それがよくこんなにスラスラ言えたな、と自分でもびっくりするぐらいの文章量で告白に対する返事をしていた。
ちなみに交際することを決めた俺の頭に、周囲の男子のやっかみとか妬みとかはなかった。告白確定して舞い上がり、俺の頭が冷静でなかった証拠である。
告白への返事を聞いた京帝 真妃乃は頬を薄らと染めて、とても嬉しそうに破顔した。
「うん! よろしくね、
そうして俺と彼女の、男女間での交際が始まったのであった――……。
「ねぇねぇ、寿くん」
破顔後、ニコニコしたまま早速恋人らしく俺の腕を抱き込んできた京帝 真妃乃が、上目遣いに俺を見上げてきた。
俺が彼氏となった瞬間からの名前呼びに、じゃあ俺も真妃乃と呼んでもいいのだろうかと調子に乗ったことを考えながら話を促す。
「どうかした?」
「あのね、お願いがあるの」
付き合った瞬間からお願い事をされるとは、俺は彼氏としての力量を試されているのか。「私のことも真妃乃って呼んで?」とか、そんな可愛らしいお願い事だったらいいのだが。
「どんなお願い?」
平静を装ってドキドキしながら聞けば、小首を傾げて可愛らしく口許に拳を当てて。
「私、元彼からストーカーされているの。助けて?」
待って何それ聞いてない。
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