お耳のパートナー
シヨゥ
第1話
同居しているのに日に一言二言話すことすら稀。そんな状態に耐えられるパートナーに出会えたのは運に恵まれているのかもしれない。
お互いまわりから繊細さんと言われるほどに精神的に過敏なところを持ち合わせている。1人が好きで独りが嫌い。一人の時間がないと疲れが抜けない。けれども独りで居すぎると気が狂いそうになる。そんな似た者同士。互いにパートナーとして迎えることができて良かったと顔を合わせるたびに話している。
僕らの会話は主にホワイトボードとICレコーダーを使用している。
『今日の夕食は煮魚! ちょっと自信作』
家に帰るとホワイトボードにはそんな感じで夕食のメニューが書かれている。書いた本人は就寝中だ。
一人の食事のお供はICレコーダーに吹き込まれたパートナーの声。仕事の愚痴やら最近の出来事をラジオ感覚で聞く。目の前にはいないけど耳元にいる。そんな不思議な位置関係。
ぼくも風呂に入りながら同じくICレコーダーにその日の出来事などを録音する。もちろん夕食への感謝も忘れない。感謝なくしてパートナー関係はありえないのだ。
ホワイトボードには基本的に夕食の希望を書く。これはパートナーのリクエストでもある。料理好きのパートナーからしたらある程度選択肢を狭めてくれないと作るものに困るということだ。
あとは休日が重なることが分かった日はそれを書く。それから何日もかけてホワイトボードを通して予定を決めていく。非効率だがそれがなぜか楽しい。この話題の時はパートナーの文字が躍っているように見える。それがかわいくてたまらないのだ。
こんな特殊な同棲生活を続けているせいだろうか。たまに会うとなんだかこそばゆい。それというのも初めて会った時の感覚を思い出すのだ。ただそれが心地よくて良いとも思っている。
今日もこのあと落ち合うことになっている。時間と場所を決めての待ち合わせ。パートナーを見つけたらなんて声をかけようか。そんなことを考えてしまってなんだか恥ずかしい。ただこの初々しい恥ずかしさをいつまでも持っていたいとも思うのだ。
お耳のパートナー シヨゥ @Shiyoxu
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