僕にだけ見える幽霊メイドは剣の達人です~天秤の神域者

@h27

第1部 神域の少年

第1話 僕の神力

 -0- 

 

 神力。

 それは犬神市でのみ使用可能な超能力。身体能力を上げる力、心を読む力、物体を触れずに飛ばす力、思考を加速する力、炎を操る力。種類はいくつもあるが、一人に一つしか宿らないと言われている絶対のルールがある。


 なぜ犬神市でしか使えないのか、一人に一つしか宿らないのか。謎は多いが、この未知の力によってこの街の人々は生きている。 

 無論。この能力に生かされる者や救われる者もいれば、その反対もあり得る。光あるところに闇があるとはよく言うが、神力も使う者次第だ。


 力とはそういうものだ。


 -1-

 

 犬神市、某中学校。

 九月というのに憎たらしい太陽が、机を熱く燃やす。秋というにはまだ早い。残暑と言う言葉がぴったりだ。


 「おい、シュウヤ。お前生きてるか?」


 「死んでもいいしょ、こんな神力者。こいつだけ夏休みのままこなきゃよかったのにな」

 

 「ホントそれな」


 机に顔を乗せて寝ている少年はああ、面倒くさいと感じた。このまま暑さで死んでしまいたいとそこそこ本気で考えるほどに。


 「いっそのこと俺の能力でやるか?」


 「それはやめとけ、こいつ殺すのはともかく。神力を使ったのがばれると色々まずい、校内での神力使用はやばい」


 「ホントそれな」


 いっそのこと殺せばいいじゃないか、人を殺すにはそれ以外の方法がある。刃物で刺す、ここ三階の窓から突き落とす。方法はいくらでもあるだろ。

 と少年は思った。


 「だな。掃除メンドイし帰ろうぜ、こいつに掃除任せて帰ろうぜ」


 「おう、こいつといるといつ燃やされるか分かったもんじゃないしな、教室の掃除しとけよお前」


 「やっとけよ」


 少年に心ない言葉をかける三人は教室を去る。教室から完全に彼らが去ったのを確認すると少年は立ち上がり、清掃用具入れから床ほうきをだして掃除を始める。


 「僕がやったわけじゃないのに、いっそのこと本当に燃やしてやろうかな。本当に何もかも全部燃えてしまえば楽なのに」


 思いもしないこと、少年はそれ程に現状に病んでいる。

 

 連続放火事件。多くの命を奪っている狂気的無差別殺傷事件。あの三人の友人や家族も何人かはそれで死んでしまった。それは少年のせいではない。しかし、少年は幾度とその事件の現場にたまたまいた。そして生き延びてしまった。


 何より、少年は炎を操る神力。疑われるのも仕方がない。悔しさの矢先にされるのも仕方がない。


 少年は分かっている。炎を操る力が珍しくもないことを、自分の神力ではあそこまでの火災を起こせないことを。それを彼らが理解していることも。ただ、その場にいて、炎を操る力を持っているという点で失った者の悲しさ、悔しさをぶつけているだけ。


 少年は彼らに言い返せない、反撃しない。あの事件で普通でない心境になっていることを理解しているから。


 

 




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