第8話 夕と夕日の父親

停電による暗闇が回復しない。

多分、夕日はかなり頑張ってはくれてはいるんだろうけど。

俺は恥ずかしがりながら佐藤さんを見る。

佐藤さんは震えながら俺を掴む。

その姿に俺は佐藤さんの頭を撫でる。

ビクッとした様な佐藤さんだったが最後は安心した感じで俺の胸板に吐息をかける。


「佐藤さん。取り敢えずは椅子に.....腰掛けようか」


「そ、そうですね.....羽鳥さんは、い、一緒に居てくれますか」


「うん。一緒に居るよ。大丈夫だから安心して」


「すいません.....」


佐藤さんは俺に対して頭を下げる。

それから俺に笑顔を見せる。

そして俺に寄り添って来ながら手を握ったその時だった。

夕日がやってくれた様で停電が回復する。

俺達は奥の方を見る。


「お兄ちゃん。何とか回復したよ。.....ちょっと疲れたから休むねー」


「すまないな。夕日。有難う」


「夕日ちゃん。有難うね」


「いえいえ。有難うみんな」


それから俺は立ち上がる。

そして笑顔を浮かべる。

取り敢えず、夜食でも作ろうか、と、だ。


でも少し夜遅いからあまり作れないけどね。

と苦笑するが。

すると夕日は手を挙げた。

笑顔で、だ。


「じゃあお兄ちゃんお手製パンケーキ!」


「やれやれ。本当によく食うなお前。.....しかもこの時間なのに。あ、佐藤さんは何か食べる?」


「え?わ、私ですか?」


悩む佐藤さん。

俺はその姿に、ゆっくりでいいよ、と笑みを浮かべる。

すると佐藤さんは、じゃあ私も.....羽鳥さんお手製パンケーキでお願いします、と柔和になった。

俺は目を丸くしたが、了解、と頷く。


因みに俺が作るパンケーキだが米粉を使う。

何故か、と言えば簡単だ。

小麦粉がそれなりに高いから、である。


その為に安い食材でアレンジしているのだ。

だから、特製パンケーキ、と夕日は言っているのである。

俺は笑みを浮かべながら、じゃあ作るね、と言いながらフライパンとか用意する。

すると佐藤さんが俺の側に寄って来る。


「あ、手伝います」


その姿はチョコチョコと動く小動物。

俺は、可愛いな、と思いながら台所に寄って来るその姿を穏やかに見つめる。

すると夕日がニヤニヤしながら俺を見ているのに気が付いた。

俺は恥ずかしくなる。


「あはは。お兄ちゃん可愛い」


「いやいや可愛いって言うなよ。格好良いって言ってくれよ夕日」


「あはは。お兄ちゃん。可愛いって言われて照れてる♪」


「当たり前だろお前。揶揄うなよ。恥ずかしいんだからな。.....仮にも男なんだから」


すると佐藤さんが俺を見上げてきた。

でも羽鳥さんは確かに可愛いです。

と言いながら、だ。


俺は苦笑いを浮かべつつ。

パンケーキを少しづつ作っていく。

懐かしいパンケーキを。


親父がよく作ってくれて。

俺が.....あの日。

夕日に作ったパンケーキを、だ。


『美味しくない!真似しないでよ!』


懐かしいもんだな。

俺は親父の真似ばかりしていたっけ。

それで反発を食らったんだ。


親父を好きだった夕日に、だ。

それから仲が悪くなったけど.....でも。

夕日が倒れてから.....変わったんだ。

本当に懐かしい日々だな。


「夕日」


「なーに。お兄ちゃん」


「正直、お前が妹で良かった。俺は幸せものだなって思う。夕日が居なかったら得られなかったものもあるしな」


その言葉に、ふえ?、と小さく呟き。

それから夕日は真っ赤になった。

そして慌て始める。

ちょっと!、と言いながら萎縮した。


「いきなり何小っ恥ずかしい事を言うのかな?お兄ちゃんは。こちょこちょするよ?恥ずかしいよ?」


「.....止めろ。お前のこちょこちょは的確過ぎてな。漏らす可能性だってあるからな」


青ざめながら俺は回答する。

その言葉に夕日は、あはは、と笑顔を浮かべた。

でもお兄ちゃんが突然そんな事を言い出すなんてどうしたの?

と俺の顔を見てくる。


佐藤さんも、だ。

俺はその顔に一瞬だけ濁る。

言って良いのか分からないから、だ。


「親父を.....思い出したんだ」


「あ.....パンケーキで?」


「だからお前に言うのはな、と思った」


すると、お兄ちゃん、と言ってくる。

俺は突然の言葉に顔を上げる。

そして横を見た。

夕日は.....俺を見つめてきてフライパンを握る。

それから苦笑した。


「あの頃はゴメンね。お兄ちゃんに迷惑ばかりだったよね。反抗期もあったし.....馬鹿だった。私」


そんな感じの顔を顰めている俺達に佐藤さんも巻き添えにしてしまった。

俺は焼きたてのパンケーキを渡す。

すると佐藤さんは俺に向いてから夕日を見る。

佐藤さんは俺に聞いてきた。


「羽鳥さん。聞いても良いですか。お父様に何があったんですか?」


「ああ。.....えっとな。自殺したんだ。親父は」


ショックを受ける佐藤さん。

それから口を抑える。

俺はその姿に、ゴメンな。キツイ話で、と頭を下げる。

夕日も同じく、だ。

佐藤さんは俺に涙を浮かべる。


「大変な人生ですね.....私の事なんか全く及ばないです.....」


仮にも親が生きてますから。

と俺に向いてくる。

俺は、そんな事ないよ、と真剣な顔をした。

人生は比べちゃ駄目だからな。

そう思いながら見る。


「人生はみんな大変だ。そしてみんな苦労している。だから比べないで」


今は笑顔でいこう。

と俺は蜂蜜とバターを取り出した。

お手製で混ぜ合わせてある。

俺は夕日を見る。

夕日も頷きながら佐藤さんの手を握った。


「明るくいこう。お姉ちゃん」


「夕日ちゃん.....」


「すまないな。暗くして。明るく行こう。夕日の言う通りだ」


「.....」


佐藤さんは頷いてくれた。

俺はそれを見ながら、よしっ、と手を叩いて笑顔を浮かべる。

それから、パンケーキ祭りだ!、と手を挙げて高らかに宣言した。

夜にやるものではないとは思うが。


楽しくいきたかったからな。

佐藤さんは驚いていたが途中から笑ってくれた。

夕日も、だ。

その顔を見るだけで.....幸せに感じれた。

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