山葵を盗み食った子供

 今は恣意未来とある家で寿司を食った子供が居た。その子は育ち盛りで自分の分だけでは足りなかったので親に寿司の追加をねだった。親は玉子を分けてやったがその子にはそれだけでは足りずさらにねだり、親の分に箸を伸ばそうとした。

「これはお前にはまだ早い。山葵わさびが入っているからね」と親は子供をたしなめた。

 しかし親の隙を突いて山葵が塗りたくられた寿司を盗み食った子供。初めて味わう痛みにも似た辛味にその子は席を立って家の外へと駆け出した。すると丁度そこに警官が一人通り掛かった。言葉を取り戻した子供が咽せながら警官に駆け寄って訴えた。

「たすけてください! おとうさんとおかあさんが! ぼくにどくをたべさせました!」

 これを聞いた警官はその親を逮捕してしまった。世間も裁判所も子の言い分しか取り合わず親の言い分は一顧だにされず、やがて両親はその子の親権を失ってしまった。こうしてその子は養護施設に引き取られて二度と親と会えなくなってしまいましたとさ。でめなし、でめなし。

 

 事が起こった時に一方の話だけを鵜呑みしてはならぬと言う事をこの話は解き明かしている。

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枕本語ーまくらもとがたりー 枕本康弘 @moto_yasu

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