欲張りな口

 天之御中主あめのみなかぬしが万物を作ってる最中、口だけが言葉を喋れた。その口が言うには

「目や耳や鼻の穴は二つずつつがいであるのに、何故私は一つなのですか?」

 天之御中主は口を憐れんでその縁を厚くしてやり、それを上下に分けた。これが唇である。


 唇を付けて貰った口は更に言った。

「目には睫毛まつげや眉毛が、耳には揉み上げが、鼻の穴には中に無数の毛が生えていて立派です。私にも何か様になるものを下さい」

 天之御中主はそれならばと、口の周りに髭が生えるようにしてやった。


 髭を生やした口が更に求めた。

「目は光を受け容れて様々なものを見分ける事が出来ます。耳は様々な音を受け容れて聞き分ける事が出来ます。鼻も様々な臭いを受け容れて嗅ぎ分ける事が出来ます。しかし私はものを受け容れても飲み込む事しか出来ません。私にも受け容れたものを仕分ける力を下さいませんか?」

 天之御中主は口の言う事は最もだと思い、口の中に歯と舌を生やしてやり、五つの味を教えてやった。

 こうして味を知った口が満足して去ったので、天之御中主は万物を作る作業に戻れたのだった。


 不満を適切に述べる者が多くを得るという事をこの話は説き明かしている。

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