鯱と鮫

 海を泳ぐ生き物達が王を決めようと相争い、最終的にしゃちさめが残った。 

 鯱は鮫に次のように提案した。

「これ以上同種で殺し合うのは、王たる者としてよくない。代わりに浅瀬を泳ぐ人間を多く狩れた方が王になるようにしないか?」

 海の中で自分が一番狩りが上手いと自負していたので、鮫は二つ返事で応じた。


 浅瀬までやって来た両者。

 鯱はまず化粧をして目の周りに白粉を塗りたくった。それから人間達に近づいても狩ろうとはせず彼らの前で踊り戯れた。人間達は鯱が好きになったので共に戯れた。

 鮫は鯱が気でも触れたかと訝しんだが、これで王になれると意気込み、意気揚々と浅瀬に泳ぐ人間達を次々にその牙で狩り始めた。


 粗方の人間を狩り尽くし「これで俺が海の王だ!」と鮫が息巻いていると仲間を狩られた人間達がやって来て鮫を銛と網で狩り始めた。この時、鯱は化粧していたお陰で鮫と間違われずに済み、狩られる事はなかった。

 人間に狩られた鮫は勢力を維持出来ずに海の王の座を諦めるしかなかった。こうして鯱が海の王となったのである。


 このように賢い人は敵を得意技で増長させて自滅を誘い、自らは手を下さない事が多々あるのだ。

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