3-6. オフィス崩壊

 ユリアは泣きべそをかいてうつむいたが、よく考えてみると、悲劇の起こらない別の未来を切り開くこと、それは大聖女として天命のようにも思えてきた。

 とは言え、神の力を得たとしても得体の知れない異形の敵と戦うことは恐怖でしかない……。

 目をつぶり、しばらく考え込むユリア。

 しかし、星を消すという選択肢など選べない。答えなど一つしかないのだ。


 ユリアは大きく息をつき、意を決すると顔を上げて言った。


「わ、わかり……ました。やります……」

 ユリアは星に息づく数多の人々のことを想い、過酷な運命を受け入れる覚悟を決めた。


「じゃあ、ユリアさん、シアンの研修を受けて管理者アドミニストレーターのスキルを身につけてね。準備できたら時間巻き戻すから」

 誠はにこやかに言う。

「は、はい……。で、でも……ジェイドは……」

 ユリアは頬を赤らめながら口ごもった。

「はいはい、今すぐ会いたいのね?」

 ヴィーナが優しい目をしてそう言うと、ユリアは恥ずかしそうにうなずいた。

「じゃあ、イケメン君、カモーン!」

 ヴィーナはおどけた感じで手を上げる。


「待って待って!」

 と、誠は叫んだが間に合わず、ボン! と爆発が起こってオフィスの屋根や柱が吹き飛んだ。


「うわぁ!」「キャ――――!」

 落ちてくる天井やがれきの中、悲鳴が上がる。

 ドラゴン形態のジェイドが召喚されてしまったのだ。砂ぼこりが巻き上がり、机や本棚などオフィス家具はぐちゃぐちゃに潰されてしまった。


「もう! 二度とドラゴン呼んじゃダメって話したじゃん!」

 誠は砂ぼこりの舞う中で、頭を抱えながら怒る。

「あれ――――? 今回は人間形態を選んだはず……よ?」

 ヴィーナは『やっちゃった』という感じでうなだれる。


「ジェイド――――!」

 戸惑ってキョロキョロしてるドラゴンの足に、ユリアは飛びついた。

 ジェイドはそれを見ると、ユリアを愛おしそうに見つめる。

 そして、ボン! と、音を立てて人化し、ユリアをハグした。

「ジェイド――――! うわぁぁぁん!」

 ユリアはしばらくおいおいと泣き続ける。

 そんなユリアをジェイドは愛おしげに抱きしめ、頬を寄せる。


 誠はそんなラブラブな二人を見ながら、ヴィーナに言った。

「騒ぎになる前に早く直して」

「ハ――――イ」

 ヴィーナは空中に黒い画面を広げると、何かを表示させ、渋い顔でパシパシと画面を叩いた。そしてしばらく画面をにらんでいたが、やがてウンザリとした様子で宙をあおぐ。そして、iPhoneを取り出し、どこかに電話をかける。

「ねぇねぇ、美味しいケーキがあるんだけど、田町に来ない? うん……うん……。待ってるわよ、すぐにね!」

 そしてニヤリと笑った。


       ◇


「はーい、こんにちはぁ……、へっ!?」

 ドアを開けて入ってきた金髪おかっぱの女子中学生のような女の子は、がれきの山と化したオフィスを見て固まる。

「レヴィアちゃん、待ってたわよぉ」

 ヴィーナはうれしそうに近づくと、手を引っ張って会議テーブルの所に座らせて、目の前にケーキを置いた。

 レヴィアは辺りを見回してジェイドを見つけると、

「もしかして……、またドラゴン……召喚したんですか?」

 レヴィアは少しあきれた様子で聞く。

「レヴィアちゃん、綺麗に直してたじゃない? これもお願い!」

 ヴィーナは手を合わせて頼む。

「ヴィーナ様だってできるじゃないですか!」

「このオフィス以外なら一瞬で直せるんだけど、ここ、面倒なのよね……」

 わがままな事を平気で言うヴィーナ。

「分かりました。一つ貸しですからね!」

 レヴィアはジト目でそう言うと、空中に黒い画面を広げ、パシパシと画面を叩いていく。

「頼りになるわぁ」

 ヴィーナはニヤッと笑った。


      ◇


「お礼に焼き肉でもおごるわ」

 ヴィーナは綺麗に直ったオフィスを眺めながらニコニコして言った。

「やたっ! 美味しいのでお願いしますよ」

 レヴィアは満面に笑みを浮かべる。

「あなた達も行くかしら?」

 ヴィーナはユリアたちを誘う。

 女神様直々のお誘いを断るわけにもいかない。ユリアはジェイドと顔を見合わせると、

「お、お願いします……」

 と、頭を下げた。


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