3-5. 時を駆ける少女
「ここのケーキにしよう!」
シアンはうれしそうにそう言うと、ガラス戸をあけてケーキ屋へと入って行く。
ガラスのショーウィンドウの中には、芸術品のような造形をしたケーキが所狭しと並び、繊細な照明がキラキラとその美しさを際立たせている。
「うわぁ……」
ユリアは見たこともないそのきらびやかなケーキたちに圧倒される。
「どれ食べたい?」
シアンはニコニコしながら聞いてくる。
「私はどれでも……。それよりジェイドが……」
うつむくユリア。
するとシアンは、うんうんとうなずき、
「おねぇさん、ここからここまで全部一つずつちょうだい!」
と、大人買いをする。
そして、大きなケーキの箱を受け取ると人目もはばからず、そのまま田町のオフィスへと跳んだ。
◇
オフィスでは誠たちが歓談している。
「ただいまー!」
シアンが元気にケーキを掲げながら割り込んでいく。
「あれ? ケーキ……? なんかあった?」
誠が
「あれ?」
「こ、こんにちは」
ユリアは急いで頭を下げる。
「じゃーん! 大聖女ちゃんです! この娘凄いんだよ。隕石跳ね返したの」
シアンはうれしそうにアピールした。
「へっ!?」
予想外の展開に驚く誠。
「なので、あの星、この娘に任せるっていうのはどうかな?」
ニコニコしながらシアンは言った。
「うーん、そうなったか……」
誠は腕を組んで考え込む。
「まぁ、ケーキでも食べながらちょっと話聞いてあげて」
シアンはそう言うと、ケーキを次々とテーブルの上に並べていった。
◇
みんながケーキを食べるなか、ユリアはうつむきながら今までの事をとつとつと語る。
追放され、ドラゴンに助けられ、魔物と化した公爵に襲われ、戦乱の世に堕ち、最後にジェイドが身を挺して隕石を防いだことを涙まじりに説明した。
「無罪!」
うなずきながら聞いていた誠は、そう言って涙をぬぐった。
パーン!
ヴィーナはティッシュペーパーの箱で誠の頭をはたき、
「何が無罪よ! お気楽な事言ってないで真面目に考えなさいよ。テロリストに汚染された星なんてどうすんのよ!」
と、ジト目で言う。
「痛いなぁ、何すんだよ……」
誠は頭をさすりながらそう言って、首をひねると、
「その……追放前の時間に巻き戻したらいいんじゃない?」
と、ニコっと笑って提案する。
「時間を巻き戻す!?」
ユリアは驚いた。一体この人は何を言っているのだろう? もしそんな事ができるなら、自分が追放されることも防げるし、誰も死なないのだ。でも、そんな事本当にできるのだろうか?
「あ、いいんじゃない? 悪さをする人たちが分かってるんだから対策もできるしね」
シアンはニコニコしながらそう言った。
「巻き戻したってテロリストの仕掛けはゼロにはならないわよ?」
ヴィーナは渋い顔をする。
「まぁ、テロリストが湧いたらユリアさんに退治してもらうってことで」
誠はお気楽に答える。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私ですか?」
いきなりの提案に青ざめるユリア。
「隕石跳ね返したんでしょ? 才能あるよ」
シアンはうれしそうに言う。
「テロリストって、あの緑になった公爵みたいな攻撃が効かない人たちですよね? 無理です! 無理無理!」
ユリアは目をつぶって首をブンブンと振った。
「大丈夫、君も攻撃効かなくするから」
シアンはとんでもない事を言う。
「私あんな緑になりたくない!」
思わず叫ぶユリア。
「普通……、緑になんてならないわよ? その公爵なんなの?」
ヴィーナは首をかしげる。
「え……?」
「ユリアさんがやってくれないとなると、星は消さざるを得ないよ?」
誠は淡々とひどいことを言って追い込む。
「そ、それは……、困ります……」
うつむくユリア。
「いざとなったら僕や仲間が手伝うから安心して!」
シアンはニコニコしながらユリアの背中をパンパンと叩いた。
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