1-11. 瞑想とシステム

「人の思考には表層意識と深層意識がある。魔法は深層意識のイメージの実体化にすぎないんだ」

 ジェイドは淡々と説明する。

「どういう……こと?」

 いきなり難しいことを言われ、首をかしげるユリア。

「理屈を考えたりするのは表層意識、そして、心の動きが深層意識だね」

「うーん、では魔法は心の動き……なの?」

「そう、心の奥底でイメージを練り、システムに渡す」

「システム?」

「ユリアも無意識にやってるはずだよ。術式のイメージを固めたらどうしてる?」

「どうって……、おへその辺りに……集めてる……かな?」

 ユリアは宙を見つめながら答える。

「その先にシステムがある」

「おへそがシステム!?」

「システムは実体があるわけじゃない。深層心理の出入り口だ」

「出入り口?」

 ユリアは首をかしげる。頭の上には「?」マークが浮かびそうだ。


「まぁ、実際にやってみよう。これを見て」

 ジェイドは手のひらの上にろうそくのような小さな炎を出した。

「綺麗な……炎ね……」

 ユリアは近づいてじっと見つめる。

 真紅の炎は手のひらの上でゆらゆらと揺らめき、鮮やかな光の微粒子をパラパラと宙に放っている。

「手を近づけると……、熱い。やってみて」

 ユリアはそっと手を近づけて……、

「あちちち!」

 と、手を引っ込めた。

「そう、熱いもの、熱いエネルギーのイメージをシステムに送るんだ」

「分かったわ! 熱いエネルギー……熱いエネルギー……」

 ユリアは目をつぶってイメージするが……何も出てこない。

「それは表層意識だね」

「えっ!?」

「深層意識でイメージしないと」

「そんなの……どうやれば?」

 ユリアは眉をひそめる……。

「深呼吸を繰り返すんだ。四秒息を吸って、六秒止めて、八秒かけて息を吐く。やってごらん」

「わ、分かった……」

 スゥ――――、……、フゥ――――。

 スゥ――――、……、フゥ――――。

「うまいうまい。徐々に深層意識へ降りていくよ」


 スゥ――――、……、フゥ――――。

 スゥ――――、……、フゥ――――。

 ユリアはだんだんポワポワした気分になってきて……、やがてすぅ――――っと意識が深い所に落ちて行く感覚に囚われた。

「この状態で熱いエネルギーをイメージだ」

 ユリアはトロンとした目をして手のひらを上にする……。


 しかし、何も起こらない。

「焦らなくていい、もっと奥へもぐってみて……」

 スゥ――――、……、フゥ――――。

 スゥ――――、……、フゥ――――。

 ユリアはさらに深層意識の奥深く潜っていく……。

 次の瞬間、


 ボワッ!

 炎が手のひらの上に灯った。

 そして、さらにイメージを追加していく……。

 どんどんと大きくなる炎……。

 やがてキャンプファイヤーのような炎になった時、ジェイドは水玉をぶつけ、消火した。

 ジュワー! 湯気がもうもうと上がる。

「上出来だ。はい、戻っておいで」

 ジェイドがそう言うと、ユリアの目がパッと開き、

「できたわ!」

 と、喜んで両手を高く突き上げた。

「さすがユリアだな。普通はこんなにすぐは無理だ。後は魔法の種類と強さを鍛えて行けばいい」

 ジェイドは微笑む。

 ユリアには適性が無いとされていた火魔法が出せたなら、水魔法も風魔法も出せるだろう。飛行魔法だって使えるはずだ。

 今、この瞬間、ユリアに無限の可能性が開けたと言える。


「ありがとう!」

 ユリアはキラキラした瞳で、ジェイドの手を両手で包んだ。

 ジェイドはニコッと笑ってうなずく。


「でも……、魔法がこういうものだとしたら、神聖力とか術式って……、何なのかしら?」

 ユリアは首をかしげる。

「深層心理で何かやるというのは普通なかなかできないので、簡略化した方式が開発されたんだよ。楽な分、制約がついてる」

「開発……?」

「昔、魔法なんてなかったんだ。あるお方が導入して、その際に設定されたんだよ」

「へっ!?」

 ユリアは目を真ん丸くして言葉を失った。生まれてからずっと親しんできた、自分の一部ともいえる神聖魔法。それは大いなる自然の摂理の一環だと思っていたら、誰かに作られたものだと言う。

 ドラゴンは嘘なんか言わないだろうし、実際自分もジェイドの言うとおりにやったら火魔法が使えたのだ。

 一体この世界はどうなっているのか? 知られざるこの世のカラクリの裏を垣間見たユリアはブルっと震え、背筋に悪寒が走った。


「そ、そのお方って……、誰なの?」

 ユリアは恐る恐る聞く。

「うーん、説明が難しいな。そのうち……会えるかもね」

 ジェイドは眉をひそめながら言った。


 魔法を作った存在、それはもはや神と言えるような存在だろう。一体どんなお方なのだろう……。

 ユリアはゆっくりとうなずき、今まで想像もしたことのなかった新しい世界観を、どうとらえたらいいのか困惑していた。

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