呆然なるままに

 死神が引きずられていったのは、小さな一軒家いっけんやだった。

 聞くに、ここは九條愛日の自宅であり、兄と二人で暮らしているらしい。

 死神は愛日によってぐいぐいと奥まで押されてゆき、『からだを冷やすと一大事なので』という言葉と共に、浴室へつめられた。


 呆然としたまま、シャワーを浴びる死神。

(いや、『神術しんじゅつ』でいくらでも元の状態にできるんですけどぉ……)

 シャワーの温度は、丁度よい具合にあたたかくて。その心地よさが、彼をなんだかいたたまれなくさせる。

(あんな小さなからだでおれを、守ろうとした。しかも、心配まで……)

 彼はこれまで、うとまれること、恐れられることは数知れずあった。

 死神は、知らない。知らなかった。

 だれかによって与えられる、お節介なまでの強さと優しさを。

(〜〜冷静になれ、おれ!)


 手早くシャワーを済ませ、彼は頭を切りかえるようにわしゃわしゃと乱しながら浴室よくしつを出る。すると。

「あ」

「え??」

 そこには死神のれた衣服を洗濯機にしまいいれる、華奢きゃしゃな美少女がいた。

 対する死神は、全裸ぜんらである。

 すっ、と美少女――愛日は何事もなかったかのように洗濯槽へ洗剤を入れて、ぴぴっ、と操作を済ませ。死神へバスタオルとジャージの上下、そして男性用下着のパッケージを差しだす。

「これ、兄のと買い置きですが。お洋服が乾くまでどうぞ」

「――」

「では。失礼しました」

 真顔のまま、こともなげに告げて、洗面所から出てゆく少女。

「ぅええェ……??」

 死神は、行き場のない思いと着替え一式をかかえたまま、ただただ気の抜けた声をれながすしかできなかったのだった。

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