夢月
Γケイジ
第1話夢月
昼間だというのにカーテンを締め切った暗い部屋に二人、いや一人と一匹か?とにかく人型が二体いた。片方は男でヘッドホンをしてモニターに向かっていた。集中しているようにも見て取れる。何かの作業をしているに違いない。もう片方は女、どちらかというと男より幼くて少女といったところか。そいつは何とか男の気を引こうと必死だった。
「ちょっと、お兄さんこっち見てよ。ねぇお兄ちゃんってば・・・無視かよ兄貴、おい!兄者!こっち見ろっ!」
そんな必死の呼び掛けにも男は無反応だった。
「っく・・・手強いわね。こんなにかわいい私が呼んでいるっていうのに集中を一切乱さないなんて。でもね・・・。」
ニヤリと笑みをこぼす女。何を企んでいるというんだ。
「ふっふー、私ったら何て賢いのかしら!?喰らえ!一旦お茶でもどうですか攻撃っ!」
そういって彼女は湯を沸かし、そこら辺にあった何時のものか分からないインスタントコーヒーを入れて自分の物と思われる大きなキャリーケースから美味しそうなクッキーを取り出す。
「カーテンだって勝手に開けちゃうんだからね!浴びよ、日光をっ!」
埃っぽいカーテンを勝手に開ける女。埃っぽさにむせる。
「きったねー!どんだけ掃除してないのこれ!?お茶の後は掃除ね・・・。」
流石に耐えられなくなったのか男が動き出す。PCをスリープにして部屋から出てきた。茶の間にはマグカップ一杯のコーヒーが二つとクッキーが皿に並べてあった。それを見ていると女が寄ってきて言った。
「さぁ、飲みましょう。休憩よ?休憩。」
男は深いため息と共に床に座ってもう一度マグカップを眺めた。
「飲まないと冷めるわよ?実は猫舌だったりして。」
女はコーヒーを一口か二口程飲んで言った。
「毒なんて入ってないんだからね?安心して飲んでよ。まぁ、風味が抜けて美味しくないけど・・・。」
それを聞いて男は少し考え込んでいたが、途中で意を決したのかそれを飲み干す。それを見て女は言った。
「そんな一気に飲んだら熱くない!?」
やはり熱かったのだろう、苦しみの表情を浮かべる。
とはいっても何とかを過ぎれば熱さを忘れるというものだ。直ぐに平気な顔になる。男は少しして神妙に話始める。
「さて、俺の幻覚君よ、余計な真似は止めてさっさと居なくなったらどうかね?」
それを聞いた女は立ち上がり言った。
「幻覚じゃないわ!それに私、乙女だから「君」って呼ばないで!?」
「往生際の悪い奴だな?良いだろう、貴様の言い分を聞いてやる。」
それを聞いた女は水を得た魚だ。途端ににんまりと笑顔になる。
「ふっふっふ!よくぞ聞いてくれたわね!?私の名前は夢月!かわいい悪魔ちゃんです!パパは悪魔将軍ベリアルだから変な真似をしようものならあんたを地獄に突き落とすわよ!参ったか!?」
男は冷静に言った。
「ならば照明して見せよ。」
それに答える夢月。
「見て私の耳、人間と違ってとんがり耳だよ!他にも・・・えいっ!」
指をコンロの方へ向けると勝手にコンロが点いた。これは驚きである。
「むむっ、これは真実味がある。では少し待ってろ。」
「良いわよ。」
男はスマホを取り出し検索した
「えーっと、悪魔 弱点 っと・・・これだな。」
男は取り敢えず知っている仏教の経典を唱える。
「ど・・・どうしたの!?急にそんなものを唱え出したりして。」
「なんだ、効かないのか。」
「私は高位な悪魔だからそんなただのお経何て効きませーん。ばーか、ばーか!」
「では、お前は私をたぶらかす為にやってきたのだなそうなのだな。」
「そうよ!あんたをたぶらかしてろくでなしにしてやるんだからね!?」
こうして既にろくでなしと思われる男とかわいい悪魔の共同生活が始まったのであった。
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