共存契約
『……興味深い。俺にも聞かせてくれないか』
一斉に声のした方へと視線を向けました。
そこには夕日を背に───ニタと対峙したケモノ───キツネがいました。
「……!! ケモノ! 」
『───オマエたちから似た臭いがする。そっくりな話を聞いた。詳しく聞かせてくれないか。ち……王の代理で来たオレに』
「ケ、ケモノに従う理由なんてない! 俺たちの方がエラいんだ! 」
『共存契約の理由はお互いの領域を侵さないため、それだけだ。こちら側には、人間に従う理由はない、我々の方が強いからだ、というモノたちがいる。おなじだな。意見の総意であることを王に伝えよう』
「お、お待ちなさい! 」
珍しく慌てたおばあが前に出ました。
「ダダ……、あなたはそれでいいのですか? 」
『───ダダ? 』
「この子はあなたの娘のニタじゃありませんか。忘れてしまったのですか? 」
ダダと呼ばれ、一瞬空気が静寂に包まれます。
『……やはり、あなたがニタだったのか』
ハッとしておばあはニタを抱きしめます。
「ま、まだ王はニタを求めているのですか?
」
『あの時から王は変わらない。あの時はまだニタが幼かったからという元村長夫婦であるアナタたちの意志を尊重しただけだ』
必死な瞳で訴えるおばあに言葉を選ぶキツネ。
『……その前に、話を戻そう。今回人間がいなくなったと言ったな。こちらも同胞がいなくなっている』
場の空気が凍りつきます。
『オレは事の真相を得るため、現場を嗅ぎ分けた。森の中腹に……5人の人間と5頭の同胞の亡骸を見つけた』
それらが意味することは口にせずとも理解できます。
『……オレと同じように見に来た人間がいたようだ。確認か証拠隠滅かはわからないが。残っていた臭いがここでするのは何故だろうな───』
皆の瞳がふたりに向けられました。
「ジダ……」
「もう、もう若者たちを留められない。風習を理解できない者ばかりになってきている、ゴダのように。私も……彼らを否定出来ないでいるんだよ」
「あなたは、私たちと一緒に風習のあり方を見ているはずですよ」
理解することと納得することは、似て非なるものなのです。
「……見ても脳が否定していたよ。だってそうだろう? 人間がケモノに変わるなんて……ダダとユダがケモノになるなんて───! 」
『我々の贄と人間の贄が違うことを目の当たりして理解出来なかったんだな。拒絶反応と言うやつか』
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