第178話 信用


「私は四天王の一人、アイヴェツリーク」


 どういうことか、目の前の老人は俺にそう名乗ったのだ。

 敵の幹部がのこのことやってきて話をきいてほしいだなんて、驚きだ。

 魔族の平均的な知能がどの程度なのかわからないが、これは罠なのだろうか。


「意味が分からないな……なんで四天王が俺に話なんか……。怪しすぎる……!」


 俺は思わず身構えた。

 無意識のうちに、アイヴェツリークに向けて剣先を向けていたのだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。私に戦う意思はない。いいから話をきいてほしい」

「そんな話……信用できるか……!」

「私が名乗ったら話を聞いてくれる約束だろう……?」

「いや、約束した覚えはないね……」


 俺が警戒をし続けていると、彼はあきらめたようにため息をついた。


「まあそれも仕方のないことだな。では、これならどうだ……?」

「は……?」


 ――ズドン。


 アイヴェツリークはおもむろに、自らの心臓部に対して魔法を使用した。

 なにやら強力な魔法らしく、アイヴェツリークはその場に倒れて苦しみだした。


「お、おい……! あんたなにやってんだ……!」

「こ……これで信用してくれただろうか……。もし信用できないならこのまま私を殺してくれてかまわない……」

「くそ……! なにもそこまでやるかよ……!」


 仕方がないので俺はアイヴェツリークに向けてエリクサーを使用した。

 アイヴェツリークはふらふらと起き上がる。

 まさか俺に信用されるために、自分を殺そうとするなんて……。


「おい……俺が助けなきゃあんた死んでいたぞ……」

「まあそれならそれで仕方がないさ。だが私の覚悟は伝わったはずだ。それに、君ならエリクサーを惜しみなく使うだろうと思っていたよ。ロイン・キャンベラス」

「くそ……仕方ない。話ってのはなんだ……」


 さすがの俺も、ここまでされたからには話を聞くしかないだろう。

 どうやら本当に敵意はなさそうだし、いざとなっても負ける気はしない。

 俺が促すと、アイヴェツリークは深刻な顔つきで話始めた。


「実はな……私には娘がいるんだ」

「ほう、それで……? 娘だけは助けてくれってか……?」


 魔族にもどうやら家族を思う気持ちはあるらしい。

 それなら人間を殺すのもやめてもらいたいもんだな。


「ああ、その理解であっている」

「だけど……その娘ってのも魔族で、人間を殺そうとしてるんだろ……?」

「いや、娘は人間だ」

「は……?」

「本当の娘じゃない」

「どういうことだ……」


 話を聞いても、ますます謎が深まるばかりだ。

 どうやらかなり込み入った事情がありそうだな。

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