第165話 救国の英雄


 ユーラゴビス帝国の人たちはみな、死んでしまった。

 それは決して俺のせいというわけではないが、後悔の念に襲われる。

 もっと俺が強ければ……守れたかもしれない命だ。


「ちょっと待てよ……」


 俺はあることに気が付いた。

 俺には、世界樹の霊薬というアイテムがあったじゃないか……!

 このアイテムを使えば、死んだ人を生き返らせることができる。

 

 これとさっき手に入れた複製の魔眼をつかえば……!


「えい……!」


 俺はさっそく思いついたことを実行に移した。

 すると、見事に世界樹の霊薬が二倍に増えた。

 これを繰り返して、どんどん世界樹の霊薬を増やそう。


「これなら、みんなを救える……!」


 まず、俺はユーラゴビス帝国の王、ユィン王を起こすことにした。

 まだ死んでそれほど時間も経っていないだろうから、時戻しの杖は必要なさそうだ。

 とりあえず、ユィン王の死体に世界樹の霊薬を垂らす。

 すると――。

 彼の首がもとにもどり、起き上がった。


「こ、ここは……? 私は死んだはずでは……?」


 ユィン王は起き上がり、自分の身体をキョロキョロと不思議そうに見渡した。

 そして俺のことに気が付くと、目を丸くした。


「ユィン王。お初にお目にかかります。アルトヴェール王、ロイン・キャンベラスです」

「なに……!? な、なぜ貴様がここに……!?」

「そこに倒れている悪魔を倒すためですよ。そして、あなたを復活させた……」

「そ、そうだった……ジェスターク……。私はあいつに殺され……」


 ジェスタークのことを憎らし気ににらむユィン。


「大丈夫。ジェスタークは俺が倒しました。あなたは彼に脅されていたのでしょう?」


 ユィンは少し頷いて、一瞬悩んだあと、やはり首を横に振った。


「いや……そうとはいえない……すべて私が悪いんだ。私がジェスタークにのせられ……このありさまだ……」

「そうだったんですか……」

「すまないロイン王……! あなたになんとお詫びすればいいものか……! 私は愚かなあまりに、国民を危険にさらし、国を悪魔に売り、あなたの国を滅ぼしかけた……!」


 ユィンは心底申し訳なさそうに、俺に跪いて謝罪してくれた。

 まあ、俺としてはどうでもいいんだけど……。

 滅ぼしかけたと言われても、俺の国にほとんど損害はない。


「頭を上げてくださいユィン王。それも悪魔の仕業です。たしかにあなたは間違いを犯しましたが……それでも、守る国があります。しっかりしてください。ここからまた国を建てなおさなくてはいけない。それをするのは、他でもないあなたなんですよ!」

「ロイン王……なんと心が広い……! し、しかし……兵はみな死んだ……もう私にできることなど……」

「あります! みんなを蘇らせましょう!」

「な、なんだと……!? そ、そんなことができるのか……!?」

「協力してくれますか? 俺一人だと日が暮れてしまう」

「あ、ああ……! もちろんだ……!」


 俺とユィンは手分けして、戦士したゾンビ兵と、国民を蘇生させに走った。

 かたっぱしから世界樹の霊薬をぶっかけて、蘇ったやつに別の霊薬を渡し、協力してもらう。

 そんな感じで、次々に死人を蘇らせていった。


「ありがとうございましたロイン王……! あなたは本当に神様のような人だ。この国を悪魔から救ってくれて……ほんとうにありがとうございます!」


 ユィンはあらためて、俺に頭を下げた。

 まあ、結果として誰も死人とならなくて本当によかったよ。

 ジェスタークの非人道的なやり方だけは絶対に許せないからな。

 命令されただけの兵士や、まして一般人に罪はないだろう。


「本当に気にしないでくれ」

「そうはいきません……! そうだ……! 我々ユーラゴビス帝国も、アルトヴェールに入れてください!」

「は……!?」

「偉大なるロイン王。あなたはこの国を文字通り救ってくれた! 王たる資格は、あなたにこそふさわしいのです!」


 などとユィンが言い出し、俺はあっという間にユーラゴビス帝国の王の勲章を手に入れていた。

 ユーラゴビスの国民や兵士たちもみな、俺に命を救われたということで、心酔しきっている。

 まああのまま敵国としていられるよりは、俺としてもやりやすいが……。

 困ったな……さらに守らなければいけない人が増えた。


「ええいままよ! よし、こうなりゃみんな俺の大事な国民だ! ついてこい!」


「うおおおおおおおお!!!! ロイン王万歳……!!!!」


 こうして、ユーラゴビス戦争は終結し、ユーラゴビス帝国はアルトヴェール帝国の傘下となった。

 アルトヴェール帝国ユーラゴビス領は、そのままユィンが治めることとなった。

 彼は反省し、よい指導者として皆を導いてくれるだろう。




【あとがき】


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