第154話 開戦
「ロイン王……! ご報告いたします!」
「なにごとだ……!?」
今朝、俺のもとへ血相を抱えた兵士がやってきた。
「ユーラゴビスから宣戦布告されました……!」
「なんだって……!?」
ユーラゴビスといえば、ヨルガストンと国境を接する大帝国だ。
ヨルガストン王から、ユーラゴビスとの関係についてはきかされていたが、まさかこの期に及んで宣戦布告してくるだなんて……。
いったいあいつらは何を考えているんだ……そう思っていた俺は、さらに驚くべきことを知らされる。
「しかも、宣戦布告と言いましたが……なかば強引に、警告なしで進軍してきたのです!」
「はぁ……!?」
「現在、ユーラゴビス軍はヨルガストン首都に向けて進行中。途中の民家などが略奪にあっています! ヨルガストンの兵士が命からがら、知らせてくれ、事態の把握に至りました!」
「そうだったのか……。それは許せないな。そのヨルガストン兵にはたくさん褒美と休息をやってくれ」
「っは……! ロイン王……どこへ……!?」
俺はおもむろに、玉座から立ち上がった。
そして、剣を手にしてその場を去ろうとする。
兵士は、驚いた顔で俺を見上げていた。
「決まっている。戦場へだ」
◇
「転移――」
その言葉とともに、俺は遥か離れたヨルガストンの地に降り立つ。
今回、俺は独断でひとりでやってきた。
さすがに大事な彼女たちを、戦場に連れてなどいけない。
人間を相手にするってことは、モンスター相手とは違うんだ。
人同士の命のやりとりに、大事な女性を関わらせたくはなかった。
それに、これは国王としての役目でもある。
国王として領民とその大地を守るのは、当然の役割だ。
ヨルガストンからユーラゴビスに一番近い街、グランドル。
敵はグランドル付近の小高い丘にまで進軍していた。
俺は調査スキルで、遠目に奴らを確認する。
調査スキルに関しては、先日のスキルメイジ狩りのときに手に入れたものだ。
「敵は5万ってところか……多いな」
それだけユーラゴビスの軍隊は規模が大きいということだろう。
しかし、誰も彼も覇気のない顔をしているな。
まあ軍隊は上からの命令に従ってるのだろうが……。
その割に、かなり統率の取れた動きでこっちへ向かっている。
「よし、全部俺がここで迎え撃つ」
俺はそのことを、ヨルガストン軍の幹部の一人に伝えた。
ヨルガストン軍はグランドルの街にて、敵の侵攻を食い止めるために配備されていた。
それを聴いた軍幹部は、驚いて慌てふためいた。
「な、なにを言ってるんですかロイン王……! 相手は5万の軍勢ですよ……!?」
「だけど、俺が出ないと大変なことになるだろう……?」
「た、たしかにそれはそうですが……」
なにせ、今ここにそろっているのはせいぜい3000人の軍隊だ。
グランドルに急遽集められた人数としては、それでも上等なほうだろう。
敵は念入りに準備をして奇襲をしかけているが、こちらはそうはいかない。
もともとヨルガストンの軍部は先の戦いでかなり消耗している。
アルトヴェールからも人員を足して、かなり補強してあるとはいえ、すぐに国境付近に配備できる数としてはこれが限界だった。
俺の転移や転移石でいちいち運ぶということもできるが、それにしても面倒だ。
首都の防衛などもかかせない。
おそらくだが、敵の5万という軍勢は防御をなげうってのものだろう。
まったく、なにを考えているのかわからないが……。
「ですが、王自らが……しかも一人で戦場に赴くなど、きいたこともありません!」
「前例なんて知らないさ。だけど、俺の国なんだ。俺が守ってもなにも不自然なことはないだろう?」
「はぁ……そ、そうですが……。王がそうまで言われるのなら……も、もう私からは何も言えません……」
「じゃあ、そういうことで。街の警備はみんなに任せるよ。くれぐれも、市民を守ってくれ」
「わ、わかりました……! この命に代えても! 王も、絶対に生きて帰ってください」
「当たり前だ。俺はまだこんなところで死ぬわけにはいかない」
俺はそう言って、一人また転移した。
こんどは、敵の軍隊5万人の目の前に――。
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