第148話 ドロシーから魔鏡


「わあああああああ!?」

 

 ドロシーに時戻しの杖を使用すると――。


 一瞬にしてドロシーの肉体に変化が訪れた。

 それと同時に、例の鏡が吐き出され、地面に落ちた。


「ま、また幽霊に戻ってるぞ……」


 ドロシーは自分のスカスカの肉体を見て、残念そうにつぶやいた。

 彼女の肉体を時戻しの杖で逆行させるということは、つまりそういうことなのだ。

 ドロシーが今の完全な肉体を手にしたのは、例の鏡のおかげだった。

 デロルメリアを倒し、ドロシーの願いが成就したことによって、彼女は実体化していたのだ。

 だが、ドロシーから鏡を分離すれば――当然、それ以前の霊体に戻る。


「すまないドロシー。どうしてもこの鏡が必要なんだ。しばらく……事が落ち着くまで、しばらくそのままで我慢してくれないか?」

「むぅ……しかたがない。どうせ500年もこの霊体で耐えたんだ。今更どうってことない」

「ありがとう。苦労をかけるな。ん……500年前……?」

「どうしたのだ? ロイン?」


 ドロシーの言葉をきいて、俺はあることに気が付いた。

 そう、ドロシーはそもそも、500年前は生きた人間だったのだ。

 ということはつまり……。


「この時戻しの杖……いったいどこまでさかのぼれるんだろう……?」


 俺は試しに、いろんな物に対して使用してみることにした。

 いきなりドロシーに使っても、変なことになったら困るからな。

 すると、あることがわかった。

 時戻しの杖は、込める魔力を増やせば、さらに昔へとさかのぼることができるのだ。

 あとは、使用時のイメージによっても変化するようだ。


「よし、これを使えば……! ドロシー、ちょっときてくれ」

「……? わかった……」


 俺はドロシーに向けて、時戻しの杖をフル稼働させた。

 とにかく魔力を込めて、生きているドロシーをイメージする。

 すると――一瞬にして、500年の時を超え――。


「わあああああああ……!?」


 なんとドロシーがまた再び、完全な実態を持ってその場に現れたのだ。

 幽霊ではなく、生きたままの存在として。


「す、すごい……! また生き返った……!?」

「やった! 成功だ!」


 俺はまっさきにドロシーを抱きしめた。

 今度は鏡の効果じゃなく、完全にドロシーを生き返らせることができた。

 またこうして愛する人に触れられることを、心から喜んだ。


「ありがとうロイン……!」

「俺も、ドロシーが生き返ってうれしいよ」


 喜び合った俺たちは、しばらくして、ある問題に気づく。

 ドロシーから鏡を分離することに成功したのはいいものの……。


「この鏡って、本当に魔鏡デモンズペインなのか……?」


 この鏡は、あくまで《ドロシーの鏡》なのだ。

 もしこれの正体が魔鏡デモンズペインだったとしても、どうやってそれを知る?

 どうやってこれを使って、魔界に渡るんだ?


「くそ……また振り出しかよ……」


 ひとつ成功しては、また次なる問題が降りかかる。

 なかなか楽にはいかないものだ……。

 だけど、俺は決してあきらめない。

 ドロシーたちみんなの笑顔を守るためにもな!


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