第144話 最後の敵


「どうしたんだ……!?」


 俺は慌てて、モモカに駆け寄った。

 モモカは蘇生させてから、なかなか回復が遅かったのだ。

 それもそのはず、彼女はデロルメリアに無残な殺され方をしている。

 いくら完全蘇生可能な世界樹の霊薬だとしても、後遺症が残るのだろう。


「くそ……意識がない……! とにかくベッドに運ぶんだ!」


 なんとか命には別条ないようだが、それでもモモカの容体は危険だ。

 せっかく蘇生させたというのに、このままじゃまた死んでしまう。

 どうやら彼女の肉体は急激に老化し始めているようだ。


「なんとかならないのか……」


 そのときだった、ネファレムがこちらへやってきて、俺に提案した。


「私は、この状況を打破できる手段をひとつだけ知っている……!」

「なんだ!? 教えてくれ!」

「だが……非常に危険だ……」

「大丈夫だ。言ってくれ」


 せっかく蘇生させた命なんだから、たとえかつては敵対していた間柄であろうとも、俺は見過ごせない。

 それに、肉体を若返らせる方法も手に入れておけば、あとあと役に立つ。


「これは黙っていようとおもっていたんだが……」


 そう前置いて、ネファレムは話始めた。

 どうやら、先代勇者が残したレジェンダリーダンジョンには、まだ隠れた要素があったようなのだ。


「あと一体だけ、あのダンジョンの奥に眠っているんだ。超危険なモンスターが……。そいつのドロップアイテムなら……あるいは……」

「そうだったのか? なんでそいつは使わなかったんだ?」


 ネファレムは俺たちにレジェンダリーダンジョンをクリアされたくなかったはずだ。

 そいつを使えば、俺たちはさらに苦戦を強いられていただろう。

 だけど、ネファレムはそいつを最後まで使わなかった……。

 ということは……?


「あれは……いくらなんでも危険すぎるからな。あくまであのレジェンダリーダンジョンは、お前たちを鍛え、先代勇者が残した遺物を継承することが目的だ。本当に死なれては困る……」

「ふん……まさか俺がそいつに勝てないとでも思ってるのか?」


 俺も、見くびられたものだ。

 これまでに幾度も強化を重ねて、最強と呼べるまでになった。

 もちろん、自分の能力を過信しているわけではない。

 驕っているわけでもない。

 だけど、今までに何度も不可能を可能にしてきた。

 どんな強敵にも打ち勝ってきた。

 それは、俺に確定レアドロップの力があったからだ。

 そんな俺が、勝てない相手だと……?


「ああ、ロイン。いくらロインが強くても……あれには勝てない」

「マジか……」

「あれは一度解き放ってしまったら、もう誰にも止められないんだ。そういう怪物。先代勇者も、あれを完全に倒すことはできなかったはずだ……。捕らえることはできたがな。ダンジョンを管理する私でも、あれを解放したらどうしようもなくなる……。だから、使えなかったんだ」

「そうだったのか……」


 先代勇者でさえ、完全には倒せなかった強敵か……。

 まあ確かに、そんなやつを解き放ったら、誰も倒せない。

 それこそ、世界がそいつに蹂躙されるしかなくなるだろう。

 つまり、これは一か八かの戦いってことだ。


「よし、ネファレム。レジェンダリーダンジョンに戻るぞ。そいつと戦わせてくれ」

「…………おい、話を聞いていたのか?」

「もちろんだ」

「はぁ……まあ、そういうだろうと思ったけどな……。ロインなら」


 不可能だからといって、やめる理由にはならない。

 どのみち、魔王を倒すことだって不可能とされているようなことなのだ。

 不可能を可能にしていかなければ、前には進めない。

 俺は今までだって、ずっとそうしてきたんだ。


「で、でも……ロイン! なにもそこまでする必要はないんじゃ……?」


 俺を心配してか、クラリスがそういう。

 まあ確かに、モモカ一人を助けるために、世界を危険にさらすことにもなる。

 だけど――。


「いや、俺は助けられる命を、見捨てることなんてできない。俺は絶対……それはしたくないんだ。無能だと蔑まれ、見捨てられた俺だからこそ……!」

「ロイン……やっぱり、優しすぎるね……!」

「それに、先代勇者でさえ苦戦した超危険モンスターから、どんなレアドロが手に入るか……さっきから気になって仕方がない。そのためなら俺は、世界だって賭けに出そう」

「はぁ……やっぱり……それなんだね……」


 もちろん、負けるつもりは微塵もない。

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